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  • ソードアート・オンライン 5~6巻 ファントム・バレット

    川原礫 (アスキー・メディアワークス 電撃文庫)

    傑作(30点)
    2020年8月24日
    ひっちぃ

    VRゲームの仮想現実の中に一万人ものプレイヤーの意識を閉じ込めたソードアート・オンラインの事件を生き残った高校生の桐ケ谷和人は、事件のことが縁で知り合った総務省の役人である菊岡誠二郎からゲーマーとしての腕と経験と知識を買われて調査を頼まれる。荒廃した未来世界で銃を撃ち合うガンゲイル・オンラインというゲームの中で、銃に撃たれたキャラクターを操作していたプレイヤーが現実世界で変死しているという。ライトノベル。

    前巻までが面白かったので続けて読みだしたのだけど、50ページぐらい読んでも「死銃(デス・ガン)」の陳腐なシーンや官僚との退屈な対話なんかがあんまり面白くなさそうだったのでいったん読むのをやめてしまった。それからアニメ化され、そっちもしばらく放置していたのだけど見てみたらとても面白く、原作のほうも読み進めたいと思ってようやく手にとってみた。面白かった。

    本シリーズは1~2巻が剣だけのファンタジー世界、3~4巻で魔法と他種族と現実世界が加わったが、この5~6巻ではガラッと変わって銃で撃ち合うSFものになっている。初めての世界に戸惑う主人公の桐ケ谷和人ことキリトだったが、レアものの女っぽいアバター(キャラクターの外見)を引き当てたおかげで、このタイプのゲームには珍しい女性プレイヤーのシノンからこのゲームの手ほどきを受けることができたのだった。しかし同じ女の子だと思われたことで誘われるまま一緒にゲーム内の更衣室に入ってしまい、彼女のアバターの下着姿を見てしまう。すぐに自分は実は男だと言って謝ったが許してもらえず険悪な関係になる。

    ヒロインのシノンは過去の事件のせいで拳銃にとても深刻なトラウマを抱えており、それを克服するためにゲームの中で強くなろうとしているのだった。運よく手に入れたレアなスナイパーライフルのヘカートⅡを抱え、狙撃手としてゲームの中でそれなりに名が知られている。ゲーム内で最強を決める第三回バレット・オブ・バレッツという大会で勝ち上がるよう真剣に打ち込んでいたが、突如やってきて初心者のくせに飄々とした態度でありえない強さを見せるキリトに調子を狂わされるのだった。

    シノンがとてもかわいそうな背景を持っている描写が真に迫っていたので、この少女のことを応援したくなる気持ちで満たされ、この話が自分の中で非常に盛り上がって楽しめた。2巻のシリカやリズベット、3~4巻のアスナといい、この作者は絶望とそこから這い上がろうとする描写がうまいなあと思う。

    でも冷静に考えると、銃について深刻なトラウマを抱えた少女がリアルなVRゲームで銃に触れるというのは、現実と仮想現実とはほとんど差がないんじゃないかと問いかける本シリーズの趣旨からしておかしいと思う。なにせ手をピストルの形にしたのを見ただけで気分が悪くなるほどなのに。ましてやただでさえ女性プレイヤーの少ないFPS(撃ち合いゲーム)をここまでやり込んでしまうなんて。ゲーム内の銃に拒否反応が起きなかったのは不思議な偶然であり、その偶然を利用してとにかくトラウマを克服しようと真剣に打ち込み続けたからだという説明がなされている。まあそういうものかと納得する。

    一方の主人公の桐ケ谷和人ことキリトのほうは、死銃(デス・ガン)を捜すまでもなく向こうからやってきて、そいつがかつてのソードアート・オンラインに存在した殺人ギルド「ラフィン・コフィン(笑う棺桶)」のメンバーの一人であることが分かり戦慄する。長いこと記憶の奥深くに押し込めていたが、ゲーム内で死んだ人間をVRヘッドギアからの高電圧により殺してしまう恐るべき死のゲームだったソードアート・オンラインの中で、自分も何人か殺しているという事実に苛まれるのだった。

    しかしソードアート・オンラインのVR装置と違い、このガンゲイル・オンラインのギアには人を殺せるような性能はない。なぜ死銃(デス・ガン)に撃たれた人間が変死するのか謎はまったく解けていないのだった。

    謎が気になって読み進めたくなる一方で、戦いにいどむキリトやシノンの姿がとてもよかった。自分がこれからの人生を前向きに生きるために勝ち抜こうと必死になるシノン。そんなシノンや何も悪くないプレイヤーの命を守るために、贖罪の意識を抱えて苦しみながら戦うキリト。ああ自分もこんな戦いに身を投じてみたい。まあ自分は安定志向なのでいざそんな機会が訪れても戦わないんだろうけど。

    アニメがすごくよかった。シノンこと詩乃の役を沢城みゆきという実力派声優(ルパン三世の峰不二子の役も継いだぐらい)がやっていて、感情のほとばしりがぐっと迫ってきた。ぐにゃっと世界が歪むような絶望が胸にきた。銃の撃ち合いの演出も緊迫感があってとてもかっこよかった。特に終盤のスナイパーライフルの銃弾がすれ違うところとか、銃の世界なのに剣で打ち合っちゃうところとか最高だった。

    この作品に出てくるバレット・オブ・バレッツのルールはバトルロイヤル方式で、一つの島に数十人のプレイヤーがランダムに配置されて殺し合うようになっている。FortniteやPUBGや荒野行動といったここ最近ヒットしたゲームと同じルールなので先見性に驚かされる。この手のゲームっていままではソロやチーム戦が主流だった。さすがに武器を拾うだとかさらには建築といった趣向はないけれど、マップ上に置かれているギミックを利用するなんていうのはこの作品でも描かれている。自分が知らないだけでこういうゲームが以前にもあったんだろうか。

    ほのぼのした作品しか読みたくないという人でなければ、生きることとは戦うことなんだという魅力的なテーマが楽しめるいい作品だと思うので読んで欲しい。

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