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  • 八男って、それはないでしょう! 8巻まで

    Y.A (KADOKAWA MFブックス)

    まあまあ(10点)
    2019年6月10日
    ひっちぃ

    二流商社に勤めていた30過ぎのサラリーマンがあるとき何の前触れもなく中世風のファンタジー世界に5歳児として転生した。他の兄弟とは年の離れた八男の男の子としてド田舎の零細貴族の家で生きることになった彼が、魔物のいる危険な世界の中でおそるおそるこの世界の知識と経験を身につけるうちに、魔法の才能を伸ばして貴族社会でのしあがっていく話。ライトノベル。

    有名なナレーターの人がテレビコマーシャルでこの作品の名をおどけた声で連呼していたのが耳に残ったのでつい手に取って読んでしまった。まあまあ面白かったけどだんだんワンパターンで飽きてきたのでいったん感想を書くことにする。

    舞台となっているのはファンタジー世界なので魔法があるのだけど、使えるのは才能を持ったごく一部の人たちだけ。主人公が転生したヴェンデリン少年にはたまたま素晴らしい魔法の才能があり、さらに幸運なことに優れた師から短期集中で教えを受けることができてメキメキと魔法の力を開花させていった。しかし彼はその力を家族や他人に利用されることを恐れて隠しておくことにした。

    この世界では貴族といっても跡を継げるのは長男だけで、まだ次男は一族の万が一の保険として家に置いておかれるが、三男以下は成人すると貴族籍を抜けて自立しなければならなかった。成長して上の兄弟たちが一人ずつ進路を決めていく中で、八男のヴェンデリン少年は自分の魔法の力により冒険者としてやっていくことにする。息苦しい領地での生活からなるべく早く抜け出すため、山一つ越えたところにある大都市ブライヒブルクの冒険者予備校に進学することにする。

    というわけで序盤は魔法の力で徐々に無双していくのと、息苦しい境遇の中でどうやって打開していくのかが楽しみで読み進めていった。彼の魔法の力は移動系を除けば大体攻撃系が主なので分かりやすいけれどちょっとワンパターンな感じ。器用に制御して威力を上げたりするけれど、魔法の道具を作るだとかのクリエイティブな方向へは行かない。あ、探知系も割と得意だったか。

    冒険者予備校で最初のヒロインである槍使いのイーナと格闘家のルイーゼと出会う。イーナはスレンダー系の勝気な女の子で、ルイーゼは幼い外見なのに巨乳でおませさん。この二人とイチャコラするのかと思ったらパーティの仲間に毛が生えたような関係にとどまり、むしろ二人はこの世界で貴重な魔法使いとしてのヴェンデリンの力にすり寄っている感じ。ちゃっかりしてるというべきか。正直あんまりロマンス成分がなくてそのまま展開が進んでいってしまうので拍子抜けした。一方で展開が進むとやることをやっている描写があけすけに描かれる。

    主人公の相棒?として似たような境遇の貧乏貴族の五男である剣士のエルヴィンと出会うのだけど、こいつもどちらかというとお調子者でヴェンデリンに便乗してパーティを組むことになる。ヴェンデリンを利用するだとかの悪意はなくて良い友人となるのだけど、なんかあんまり読んでいて絆の強さとかを感じなかった。話が淡々と進む。

    主人公がちょっと活躍して王国に認められるようになると、正ヒロインであるエリーゼという清楚な巨乳シスター(?)が登場していきなり婚約者となる。功により新たに貴族位を授けられた主人公は、貴族社会のしきたりによって有力者の娘と政略結婚させられることになるのだった。彼女は基本的におしとやかな女の子なので自分は好きになれそうになかったけれど、女同士の戦いが起きると譲らない芯の強さを持っていてちょっと笑った。

    この作品の魅力の六割以上は貴族社会の描写にあると思う。主人公の生家であるバウマイスター騎士爵家とその寄親であるブライヒレーダー辺境伯家との間には過去に不幸な事件が起きており、関係者がそれぞれ負い目やわだかまりを持っていた。それを探ったり解きほぐしていったりする展開がとても面白かった。

    「騎士爵」というのは多分ナイトのことなのだけど、自分の知識だとナイトと準男爵までは一代限りの下級貴族で、いまちょっと調べたらイギリスではそうらしいのだけど、この世界では騎士爵も永代貴族となっている。なんか歴史的に色々なしくみがあったのだろうし、これだけ貴族社会の力学を細かく描写している作者のことだから豊富な知識からこの世界を作ったのだと思う。バウマイスター家の初代は都市部で移民を募って未開地に集団入植することでその地位を得たとのことでそのあたりがリアルでよかった。ちなみに辺境伯というのは伯爵より下ではなく上の位で、辺境を統べる地方で一番偉い貴族のこと。

    読んでいてなんだか飽きてしまったのは、キャラクター同士のやりとりがなんか淡泊で魅力を感じなかったから。特に最初に出てきたヒロインのイーナとルイーゼは、ほんとにこいつら主人公のことが好きなのかと疑問に思った。また、エルヴィンも同年代の強力な魔法使いである主人公に対してまったく引け目を感じておらず、よく言えばおおらかな人物なのかもしれないけれど、なんだか活きたキャラクターとは思えなかった。強力な主人公の傍らにいるキャラは一方的に尊敬するか逆になにかでマウントを取ろうとするかのどちらかだと思う。

    サブヒロインの中では、最初ちょっと露骨で分かりやすすぎだったけれど縦ロールのカタリーナが一番活き活きしていたと思う。こいつは何のために動いているのか目的がはっきりしていて、そのための振る舞いが自然なのでちょっと愛着が持てた。もうちょっと動きがあればもっと好きになれたと思う。プライドと実利との間で板挟みになるシーンとかあればもっと萌えたかも。

    年配組だと導師こと肉弾派魔術師アームストロングは魔法使いなのに肉体強化で殴り合う筋肉バカで、面白いキャラなんだけど安易なオチ要員であまり好きになれなかった。ブランタークは強力な魔術師なのだけど組織の中に生きるサラリーマン的な苦労をにじませていてよかった。彼に限らず偉い人でもなにかしら気苦労を抱えていて人間味があってよかった。一方で、若い連中も彼らなりに悩みはあるのだけどそれは主に将来のことで、若さゆえのくだらない悩みとか能天気さとか根拠のない自信や野望とかみたいなものが感じられなかった。作者は割と年をくってそう。アニメ化されるらしいので、アニメの脚本でこれらがカバーできたら、話の筋の面白さによってうまいこと補完し合えるかもしれない。

    主人公の転生の謎については一切語られない。まあどうでもいいのだけど。

    主人公が望んでいないのに成り上がっていくサクセスストーリーみたいなものが読みたい人にとっては、緻密に作られた貴族世界と筋書きがリアルでとても楽しめる作品だと思う。ただ、魅力的なヒロインとの甘酸っぱいやりとりや、変わり者ぞろいの愉快な仲間たちとの騒動みたいな話が読みたい人にとっては、大事なところにポッカリ穴があいたような物足りない作品に感じられると思う。自分は8巻まで読んでまだ読む気はあるのだけど、別にこのまま読まなくてもいいかなとも思っている。

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