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  • 君の膵臓を食べたい 文庫版

    住野よる (双葉社 双葉文庫)

    傑作(30点)
    2018年8月4日
    ひっちぃ

    友達のいない孤独な「僕」は、病院で偶然クラスメイトの女の子の闘病日記を拾い、なにげなく読んでしまう。彼女が余命わずかであることを知ってしまった「僕」は動揺したが、秘密を知られた彼女は逆に今まで周りにひた隠しにしてきたストレスのはけ口に、ブラックジョークをまじえて「僕」に頻繁に話しかけるようになる。青春小説。

    ライトノベルばっか読んでいたので久々に普通の小説も読んでみようかと思って、ちょっと話題になっているこの作品を読んでみた。まあこれもライトノベルみたいなものなんだけど。

    すごくよかった。読んでいて何度も涙が出た。結末もよくて、多分自分は感動したんだと思う。でも最後のまとめに入るところでアレッて思った。まあそれについてはあとで書くので、ひとまず話の紹介から始める。

    序盤、クラスの中心付近にいる明るい彼女が、暗い「僕」とたびたび学校の外で会う約束をし、彼女の秘密を知って罪悪感と憐憫の情に縛られる「僕」を彼女が振り回す展開で進む。正直このへんのくだりは彼女の絵に描いたようなステレオタイプの奔放さにうんざりして、ちょっと読んではしばらく放置するというのを何度か繰り返した。思わせぶりな彼女と、それをいなす「僕」の、青臭いやりとりで進んでいく。半分以上こんな感じ。

    読んでいるうちにだんだん彼女のことがかわいく思えてくる。でも彼女がなぜ「僕」にこんな態度を取るのか分からないままなのでイラッともする。読んでいてたぶん自分は「僕」と似たような気持ちになっていたんだと思う。でもさすがに途中で自分は「僕」と違って、彼女が「僕」に何かしらの好意を持っていることに気づいた。彼女の家での出来事はすごくリアルで、読んでいてドキドキした。

    冒頭に葬式のことが描かれているので、彼女に奇跡が起きないことは分かっている。

    後半に入り、彼女が体調を崩して入院する。色々心配する「僕」だったが、問題なく退院することになる。ところが…。

    最後は彼女の死後、彼女の闘病日記ならぬ「共病日記」の内容が明かされ、その後の「僕」のことがちょっと書かれて作品は終わる。

    この作品のことを一言で、しかも今風の言葉で言うと、いわゆる「陰キャの物語」なのだと思う。でも、これを読んだ「陰キャ(社交的でない人)」の読者は、主人公の「僕」に対して納得できるんだろうか?たぶん色んな意味で納得できないと思う。こんなの余計なお世話だろとか、同世代のかわいい女の子のほうから自分に話しかけてきたり積極的に誘ってきたりするわけないだろとか、この女じぶんがかわいいと思って調子に乗りすぎだろとか、陽キャが陰キャに少しでも憧れるなんてことがあるわけないとか。

    少なくともこの作者は陰キャのプライドってものが分かってないと思う。

    ライトノベルの世界では、陰キャの物語として殿堂入りの名作である渡航「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」があり、最近読んだ中では屋久ユウキ「弱キャラ友崎くん」がすごく面白かったのだけど、これらの作品はちゃんと陰キャが読んで納得できる説得力があると思う。

    この作品は陰キャの物語なのに(?)、肝心の陰キャの描写が薄っぺらいので、けなげな彼女のことをめでる作品になってしまっている。

    と、けなしてしまったけれど、最初不自然で嘘くさく思えた彼女のことが、読み進めていくに従ってだんだん好きになっていった。トランプを使った「真実か挑戦か」ゲームで「僕」の本心を探っていこうとするところとか、自分の感情を取り繕おうとするところとか。じゃあこの作品は彼女の物語かというと、そういうわけではないのが中途半端なのだけど、読んでいてとても良かったのは確かだった。

    奔放な女の子が小悪魔的なことをやったり、実はそんな行動の裏に繊細な気持ちを抱えていたり、といった話が好きならぜひ読むといいと思う。あと、ベタでいいから泣きたい人も。でも陰キャの物語として読むのは勧めない。

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