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    岸田秀 金両基 (中央公論社 中公文庫)

    まあまあ(10点)
    2014年10月16日
    ひっちぃ

    精神分析学者の岸田秀と、在日韓国人の比較文化学者である金両基による、日韓のこれまでの歴史と現在の歴史認識の差についての対談集。日本という国を一つの人格として突き放した視線で分析してきた岸田秀が、日本で大学教授を務めながらも朝鮮半島に強い愛国心を持ち続けてきた金両基を相手に、日本の建国神話の欺瞞という自説について意見を交換しつつ、韓国が躍進できなかった理由についてなど韓国や朝鮮について語り合う内容となっている。

    私がもっとも尊敬する学者である岸田秀の著作(共著)なので本書を手に取った。ブックオフで105円で買って放置していたのをようやく読み終わった。

    本書は岸田秀がすでにこれまでの著作で語っていた日本の建国神話の欺瞞という自説を、おそらく一番受け入れられやすそうな反日国家・韓国にナショナルアイデンティティを持った学者であり友人であるらしい金両基を相手にして語り合う内容になっている。正直対談相手として金両基という人はどうなんだろうという気もするけれど、扱っているテーマがテーマなので多分ほとんどの学者が対談や交流を避けると思うので、そういう意味ではこのテーマで語り合える数少ない相手なので仕方がないように思う。

    日本が「天皇」つまり皇帝の一種を支配者に祭り上げた理由として、中国の冊封体制つまり中国を支配する皇帝のみが世界の支配者であり周辺諸国の王がそれに従っているという秩序から抜け出して、自分たちは独立した存在なのだということをアピールするためであったと言われている。ここまでは多くの学者が賛同していることなので特段問題はない。それを岸田秀はもっと論を進めて、日本という国を作った人々は朝鮮半島での戦いに敗れて落ち延びてきたのであって、日本書紀や古事記なんかで描かれている建国神話はそんな彼らの正当性を塗り固めるための創作物なのだと言っている。

    私はこの説を正しいと思っている。そうでなければ中国という強力な文明に呑み込まれていたと思う。乱暴な例を挙げて説明すると、子供というのは最初親の影響を強く受けて成長するけれど、あるときから反発して、親は親で自分は自分だという意識に目覚めていく。その段階で、明らかに親の影響が大きいのにさも自分の意志でやっているんだと欺瞞(自分へのウソ)する。そうしているうちに本当に自律していく。

    考えてみてほしい。「天皇」ってなんだ?お前らが勝手に祭り上げているだけじゃないのか?と言われて反論できるだろうか?中国が皇帝を頂いているのだからこっちは「天皇」だ!なんて子供じみた理屈で人をまとめあげることなんて出来るはずがない。そんなとき、神話をでっちあげることほど簡単なことはないと思う。かつて日本では自分を偉く見せるために自分は源氏の子孫だとか平家の子孫だとか血筋を偽ることを平気でやっていた。ウソは塗り固められて、子々孫々に語り継がれていくうちにわけがわからなくなる。建国神話を偽ることなど簡単なことだろう。

    本書の内容に戻ると、この本はそんな岸田秀の主張が基底に流れつつ、金両基による韓国はこれだけ日本にやられてきましたという主張がさしはさまれて進んでいく。はっきり言ってこの対談はあまり相乗効果が出ていないと思う。金両基は朝鮮半島の歴史に詳しいので、岸田秀が取り上げる日本側の韓国に対するアクションつまり白村江や秀吉や韓国併合について韓国側の事情を補足してくるのでそれはそれで興味深いのだけど、金両基は良く言えば愛国者なのかそんなに韓国のことを突き放した目で見ておらずあまり参考にならないように思った。それでもいくつかの点で金両基は韓国の問題点について語っていて、たとえば欧米各国が開国を迫ったときに、韓国はフランスの黒船を撃退するのに成功したのだけど、そのせいで日本と違って驕ってしまって近代化が遅れたのではないかと言っていたり、国の内部で分かれて争ってしまいがちだったと分析したりしている。

    「海外の反応」系のブログで各国の若者がネットに書き込んでいる意見を翻訳したものをよく自分は読むのだけど、中国人は一部の盲目的な愛国者を除くと自分たちの不甲斐なさをよく自覚しているし、日本の良い面については素直に賞賛しているのがよく目につく。こういうのを読むと、ああ中国はどんどん日本にとっての脅威になっていくんだろうなと思わざるをえない。ところが韓国人というのは逆に一部の聡明な人を除くと大多数が盲目的な愛国者なんじゃないかと思えるぐらいアホで、韓国は日本ともう肩を並べたとさえ思っている人が多い。確かに韓国はいくつかの点で日本に追い付き、上回った部分さえあるのだけど、こんな意識しか持っていない韓国人にはまったく脅威を感じない。金両基の発言の各所にも、そういった韓国人の驕りと虚栄がにじみ出ている。

    日韓共通の歴史教科書を作れと金両基は本書で主張している。これにはさすがに岸田秀も当然否定的なのだけど、歴史解釈ではなくて事実のすり合わせまでならやるべきだと金両基は言っていて、それについては反対していない。でも日韓共通の歴史教科書を作りたい人々というのは事実だけじゃなくてもっと踏み込んで日本の侵略とかを記述したいと思っているわけで、この主張には無理があると思う。岸田秀は国ごとに主観が異なるのは当然という立場を取っている。ちなみに岸田秀は「新しい歴史教科書を作る会」の賛同者であり、本書でもそのことを金両基に言っている。

    というわけで本書は最近の嫌韓ブームとは違う流れで生まれており、今の多くの読者が期待するような内容にはなっていないと思う。しかし、特に白村江あたりの日韓の歴史について、教科書に載っていない真実というか史観が面白くてきっとためになるので、いままでこのような本を読んだことがない人は読んでみるといいと思う。まあでもこの対談集じゃなくて別の本を読んだほうがいいな。

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