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    宇仁田ゆみ (祥伝社 FEELコミックス)

    傑作(30点)
    2012年12月9日
    ひっちぃ

    30歳独身男のダイキチは、祖父の葬式で幼女りんと出会う。りんは祖父の隠し子だというが、りんの母親はどこかへ消えていた。りんは祖父のおもかげを持ったダイキチになつき、ダイキチは親族の反対を押し切って自分がりんを育てると言い出す。少女マンガ。

    アニメ化されたのを見て面白かったので、アニメが終わるのを待ってから原作を読んでみた。そのまえにネットで原作の評判を目にしたのだけど、アニメ化された部分から先の原作にはガッカリな展開が待っているというので、そっちのほうにも興味を引かれた。それについては後述する。

    幼女りんは六歳で、どちらかというとおとなしく、ダイキチをひどく困らせたりはしない。なので序盤は、いきなり幼女の保護者になったダイキチが、いままでの生活を変えて彼女の世話をする苦労を描いている。独身男が幼女にふりまわされるのが面白い。

    保育園でりんと同い年の少年コウキとその母親ゆかりと出会い、いつも母親の迎えが遅かったコウキを自分の家に引き取ったりするうちに家族ぐるみの付き合いになる。コウキと母親ゆかりは母子家庭だった。ゆかりはちょっと抜けたところのある美女で、ダイキチは彼女に惚れるが、子供を持つ保護者同士という線をなかなか越えられないというロマンス展開に。

    一方で、幼女りんの母親探しという話も並行して進んでいく。祖父の家に通っていたお手伝いさんが怪しいということで、彼女の行方を捜したところ…。まあ大したネタバレじゃないので言ってしまうと、幼女りんの母親は見つかるのだけど、とても浮世離れした若い女性だった。

    こうなるとこの物語のテーマは、父親とは?母親とは?家族とは?みたいな感じになりそうなものなのだけど、この作品ではそこまで押し付けがましくない。いろんな人たちが自ら選び取った道が、ごく自然に描かれていく。こうあるべき、みたいなことは一切描かれない。それでよかったの?みたいなところがせいぜいで、登場人物は葛藤するけれど大体肯定されるし、作者の視線は暖かいように思える。このへんがたぶん好みによって分かれるところだと思う。正直、ドラマチックさというのとはあまり縁のない作品だった。

    で物語は半分までくると一気に時間が飛び、なんと幼女りんが女子高生りんとなる。こんな展開は要らん!とネットで批難の声が大きかったのがここ。だって、りんが女子高生になったらこの作品の構造がガラリと変わってしまうわけで、同じ物語である必然というものがあるのだろうかと思ってしまう。三つ子の魂百までもと言うとおり、りんはしっかりものに育つ。かわいい幼女りんのことが好きだった読者はとまどってしまう。そして物語はさらに進み、最後に多くの読者が引いた衝撃のラストを迎える。

    りんの幼馴染の少年コウキはイケメンに育つ。しかしりんとコウキとの間には溝があった。コウキは年上の不良女に惚れられていて、コウキはりんのことを好きなのだけどその不良女のこともむげに出来ず、二人の関係は微妙になっていく。このあたりの展開は、読んでいると登場人物に感情移入しているから暗い気分になったけれど、リアリティがあって引き込まれた。

    正直最初自分は読んでいてこの作品をアンチ物語なのかなと思った。型どおりの話が嫌いな作者があえて読者の期待や読みを外しているだけの、言ってみればしょーもない作品なのかなと思った。この作品を好きになれなかった人にとってはそこで評価が定まってしまってもしょうがないと思う。

    だからこれはちょっと好意的すぎる見方なのかもしれないけれど、人生にはそううまくドラマチックには行かないところがあって、それでもその人の物語はそこにあるんだということを描いているんじゃないかと思う。

    ただ、そこにどうしても説得力が見出しにくいという問題は残ってしまう。意外性のもとにくっつかなかった人間関係にはまあそういうこともあるだろうと思えても、意外性のもとにくっついた人間関係にはそんな馬鹿なと思ってしまう。

    ラストがしっくりしなくてもいいやという人には勧める。そこを除けば面白い作品だと思う。ありきたりな話はいやだという人には特に勧める。劇的な作品が好きだという人や、とにかく感動したいんだという人には勧められない。

    (最終更新日: 2012年12月9日 by ひっちぃ)

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