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  • 金融商品取引法入門

    黒沼悦郎 (日経文庫)

    傑作(30点)
    2010年3月22日
    ひっちぃ

    これまで金融商品の種類ごとに分かれていた法律をまとめてほぼ一本化された、金融商品の取引に関する法律である金融商品取引法を、法律学者が理念から運用さらにはこれからのあるべき方向性まで解説してみせた本。

    同じ日経文庫の「金融入門」を読んだあと、今度は仕事に役立つよう証券の評価額の求め方についてまとまった本がないか探してみたのだけど思うような本がなかったので、じゃあちょっと方向性を変えようと思って今回は法律関係に進んでみた。いま思えば会計学や簿記のほうに目を向ければ良かったんじゃないかと気づいたのだけど。

    読んでみて自分が法律関係の本を読んだことがあまりなかったことに気づいた。中高生の頃にカッパブックスの刑法入門を読んだが、あまり細かいことは気にしなかったし。本書は入門本なので法律関係の難しい知識はまったく必要ないのだけど、それでも法律学者である作者がときどきポロリと専門用語を出す。といってもおそらく大学の教養課程レベルの用語なのだろうけど、法学を取らなかった私にはピンとこないことが少しあった。「教唆」「幇助」なんかは分かるにしろ、「無過失責任」「エンフォースメント」なんて言葉が出てきて立ち止まったり。まあ大体想像できるのだけど。

    まず前書きとして本書を出した経緯が述べられている。本書は金融商品取引法の一度目の改正後に書かれたらしい。法律というのは生き物のようにころころ変わるものなんだなあと改めて思う。会社法とかJ-SOXがどうのとか最近よく耳にするように。法律が変わるとビジネスのルールが変わる。近年だと個人情報保護法の影響は大きかった。なかでも金融業の場合、ごく小さなルール変更が末端に影響するように思う。投資顧問業というのは法律的にはもうないようで、いまは投資助言業と言うらしい。法律上の概念が統合されたり分割されたりして、そのたびに用語が新たに作られていく。

    まあそういう細かいことは置いておいて、ごくおおざっぱに言ってこの金融商品取引法がどんな法律なのかというと、要は証券を作ったり売ったりするにはちゃんと正確な情報を公開しなければいけませんよ、という決まりだ。どういうときにどういう文書を作って、それをどこに公表しなければならないとか、一部の人がズルしないよう内部の重要な情報を持っている人の取引(インサイダー取引)を禁止したり、逆に相手がプロの投資家だったらいちいち親切に説明しなくてもいいとか。

    この十年?ぐらいで色んな人が証券に投資するようになり、ろくに知識がない老人なんかが銀行の窓口で投資信託を買い、株の下落により元本割れして逆に資産が減ってしまって、こんなはずじゃなかったと問題になった。そういった投資の素人を食い物にしないよう証券会社を規制するほか、逆に日々進歩する金融業界に法律がブレーキを掛けないよう規制緩和を行ったりしている。

    まあ細かいことは書いても長くなるし大して興味もないので紹介はしない。

    この本、文章がとても洗練されていてびっくりした。法律学者というのは文系のなかではもっとも論理的な文章を書く人たちなんだろうなあと思った。それともこの人だけ特別なのだろうか。無駄がなくて構造がカッチリしている。さらに、項ごとに一通り解説してみせたあとで、現在の法律に対して現状や理念に触れて作者の視点で一言二言批評している上に、それが本当に必要最低限なのがにくい。この人は野心がないんだろうなあ。

    本書は、この法律の概要というか金融業のビジネスルールの概要と最新の情報を知りたいという人にとっては必要十分であり、とても完成度の高い本だと思う。ただ、読み物としてみれば特に面白くはなく、コラムなんていう遊びもない(ライブドアとか村上ファンドなんかの比較的最新の事件にはごく冷静にわずかに触れているのみ)。また、新書なので分量的に見て当然条文の細かいことまでは解説されていない。でも、この狙いの本としては文句のない本だと思う。

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