全カテゴリ
  ■ フィクション活字
    ■ SF
      ▼ 人類は衰退しました 2〜4巻

  • 新着リスト
  • 新着コメント

    登録

  • 人類は衰退しました 2〜4巻

    田中ロミオ (小学館 ガガガ文庫)

    まあまあ(10点)
    2009年3月13日
    ひっちぃ

    人類があらゆる意味で進歩をやめて衰退し始めてから数世紀が経った空想未来の地球では、科学技術を維持できなくなって細々と農耕生活を続ける人間たちに代わり、とってもいい加減で楽しい体長10cmの妖精さんたちが新たな人類として地球に君臨していたのだった。そんな彼らと手探りで交流を続ける人間代表の国連の国際公務員として働く主人公のインドア派で人見知りで無駄に背の高い女の子やその周辺の騒動を描いたシリーズ。

    楽しい作り話に飢えているのになかなか冒険できない私は、前に1巻だけ読んでまあまあ面白かった本シリーズを読み進めることにした。

    2巻は二つの中篇から成っている。一つ目「人間さんの、じゃくにくきょうしょく」は、妖精さんの謎の小道具をうっかり使ってしまった主人公の女の子が、とても小さい姿になって森に迷い込んでしまう話。人間が小さくなると科学的にどうなるのか、というアカデミックなスパイスの入った愉快でスリルある冒険が描かれる。「象の時間・アリの時間」とかダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」とか認知科学っぽいテーマがなかなか良かったし、物語としても結末も良かった。

    二つ目「妖精さんたちの、じかんかつようじゅつ」は、多分これはタイムリープもの。SFを当たり前のように読む私のような読者にとってはちょっと退屈な話だった。この話で「助手さん」が初登場する。幼い頃に親から離れたため自閉症気味という設定で、自己を作り上げる過程みたいなものが描かれる。このテーマはこの描写では分かりにくいだろうなあ。この話は多分同じ時間帯を行き来する主人公がちょっとずつ違う展開になるところで読ませようとしているんだろう。「助手さん」が自己を探す段階でキャラが変わるのはよく考えたら不思議だけど、主人公の女の子にセクハラして女の子が物語の語り手としてうろたえるところがちょっと面白かった。

    3巻は「妖精さんの、おさとがえり」という長編一本。失われたと思われた人工衛星からの給電施設が使えるようになって祭りを開いて浮かれる村で、近くの放棄された都市の遺跡を再び探索しようということになり、主人公の女の子も末席に加えられる。ところが彼女は隊からはぐれて助手さんと二人で都市に入って中に閉じ込められてしまう。都市はまるで迷路のようで、たまたま勘が働いて水と食料を大量に持ってきていた主人公の女の子と助手さんは、暗くて閉鎖された都市をひたすら出口を目指して歩き続ける。

    ただひたすらサバイバルで歩き続ける話というと退屈なように思えるが、何か心躍るものがある。不思議だ。村上春樹「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」での地下世界を延々と歩き続ける展開や、アーシュラ・K・ル・グイン「闇の左手」みたいにただつらい道を歩き続けるような作品が高い評価を得たりする理由が私にはよく分からなかったけど、この話を読んでいてなんとなく分かってきた。というとおおげさか。今週の週刊文春で作家の池澤夏樹が南極探検の文学を紹介していて、高校の頃に英語の教科書に載っていたイギリスのスコット隊の悲劇を思い出した。でも中盤を過ぎたあたりからの展開がいい加減なんだよなあ。なにあのよく分からない二人組は。それにあの中途半端なセンチメンタリズムは。一方で、最初妖精さんたちがいなくなったのでもう出てこないと思いきや、意外な形で再会して主人公を導いていくところは面白かった。

    4巻は中編二つ。妖精さんたちが作ったと思われる謎の工場を探検する話と、主人公たちの住む村の近辺で妖精さんたちが増えすぎたと同時に問題が起きたので一時的に主人公が妖精さんたちを集めて別の場所に行くことにし、その場所で主人公の女の子を女王とする王国が出来てしまう話。どっちも割としょうもない話だった。特に工場の話はつまらなかったけど、最後のブリスターパックのオチには笑った。王国の話はくだらなくはあったけど1巻に通じる基本に返ったシンプルな話でそれなりには楽しめた。閉鎖的な場所での社会の発展と衰退というちょっとアカデミック?なテーマも少しだけ描かれる。

    結構ケチもつけたけどそれなりに楽しめた。5巻が出たら買いそう。4巻がちょっと残念ではあったけど。主人公の女の子と妖精さんが魅力的なんだよなあ。前にも書いたかもしれないけど、主人公の女の子がオタク向けの美少女でもなく、快活でもなく、かといってかよわくもなく、人見知りだけどちょっと邪悪でSっ気もあるというのがいい。

    鎌池和馬「とある魔術の禁書目録」を読んでいたときにも思ったのだが、ヒロインの言葉遣いで「…ですよ?」という表現方法がライトノベルには定着してきているのだろうか。これは疑問系なのではなく、多分「当たり前でしょ?」「そんなことも知らないの?」というニュアンスで語尾を上げているのを表しているのだろう。かわいい感じがしていいと思う。実際に言われたらムカつくかもしれないけどw

    コメントはありません

    manuke.com