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  • とらドラ! 4巻まで

    竹宮ゆゆこ (電撃文庫)

    最高(50点)
    2009年1月19日
    ひっちぃ

    高校二年生になったばかりの高須竜児は、血統的な目つきの悪さによる学校での悪評を払拭しようと、クラス替え後のクラスで運良く一緒になった大好きな不思議少女の櫛枝実乃梨との接近を夢見ていたが、小柄な美少女ながら獰猛さで知られる手乗りタイガーこと逢坂大河と関わってしまい腐れ縁が始まる。学園ラブコメ小説。

    去年の秋から深夜アニメでやっていたので見たのが初めだった。破天荒な展開と某作品との共通性から最初はウンザリ気味だったが、見ているうちにこれはすごい作品なのではないかと思って小説も手に取ってみた。まだ読み途中だが、読む決め手となったエピソードが収録されている4巻までとりあえず読んだのでこの時点でレビューを書くことにする。

    この作品の構造は、まず語り部の男子学生の竜児と、小柄な美少女の大河が核になっている。題の「とらドラ!」とは、虎とドラゴンを意味しており、竜虎うんたらという故事から来ている。とりあえず私が読んだところまでに関して言えば、この二人は本当は好き合っているのに反発し合っている関係にある。そして二人にはそれぞれ想う人がいる。それがソフトボール部の部長コンビこと北村祐作と櫛枝実乃梨である。竜虎コンビはなんだかんだで馴れ合いながら共闘していく。

    その竜虎コンビの仲良くなる過程が非常に強引というか大胆というか、あまりに無理があってあきれてしまった。そもそも小柄なのに強力なパワーがあるという設定自体が物理的におかしいのだがそれはいいとしても、深夜に木刀を持ってクラスの男子を襲撃する美少女というプロットを平然と書いてしまうのはどうなのだろうと。

    女の子と気安く話を出来ないと自ら言っている竜児だが、そんなこんなで美少女の大河と親しくなってしまい、近所に住んでいるとは言え大河は竜児の家に入り浸って一緒にテレビを見たり食事をしたりするようになる。ありえねー、と思うものの、竜児は実質的に母子家庭で、小さな町に唯一あるスナックのママをやっている生活力のない母親の代わりに家事全般をこなして世話しているため、かわいいけどだらしない女に対してはツッコミ気味に付き合うことが出来るのだろう。そんな説明は作中ではされてないけど(そりゃ一人称小説だからそんな説明は無理だろう)、多分そういうことなのだろうと思うことにする。

    大河が竜児のことを「犬」と呼ぶのはアニメだけの演出かと思ったら小説にもそのまま書いてあった。なぜアニメだけの演出と思ったのかと言うと、大河の声優の釘宮理恵がヤマグチノボル原作のアニメ「ゼロの使い魔」でやっているルイズというヒロインが同じ口癖を持っているからである。あー、こういう風に声優で作品を語るといっぱしのアニメオタクになった気がするが、多分年季の入ったオタクからすればこんな事実は指摘するのも恥ずかしいぐらい当たり前のことなのだと思う。

    とまずはウンザリ要素から説明してきたが、この作品の画期的なところは、主人公たちの想う相手であるソフトボール部長コンビのあまりの変人ぶりである。櫛枝実乃梨はふざけて一人称に「俺」を使ったり語尾に「だぜ」「…のかね?」を使ったりする。北村祐作は、さくらももこ「ちびまる子ちゃん」に出てくる学級委員キャラのまるお君を底抜けに明るくスポーツマンな高校生にしたような外見と性格をしている。

    でもって語り部の想い人である変人の櫛枝実乃梨が、4巻で自分の恋愛観を語るところでグッときた。あんなに天然っぽくていつも変なことばかり考えているような、しかも健康的で快活な美少女(語り部フィルターか)が、唐突に自分の考えを語り始める場面に私はヤラレてしまった。

    さっきから語り部語り部と言っているが、4巻まで読んで私はようやく語り部フィルターによって曖昧になっているこの作品の真の構造(?)を掴み掛けてきた。

    まず重要なのは、竜児と大河は傍から見ればもう完全に付き合っているようにしか見えないこと。大河の唯一の親友である櫛枝実乃梨からすれば、大河が強く否定するのに「おめでとう」と祝福するだけでは済まないはずである。あんまり書くとネタバレするのでこのへんにしておく。

    2巻から登場するティーンモデルの川嶋亜美もまた性格に強烈な表裏のあるエキセントリックな人物というだけにはとどまらず、一人の人間としての憂いや悩みのある人物として描かれている。

    この作品はバカみたいに極端な性格描写とみせかけて非常に繊細に人間の機微を描いている。今野緒雪「マリア様がみてる」とはまた違った掘り下げ方をしていて、現実的で微妙なところを狙っている点に本作の良さがある。

    ちょっと良く言い過ぎたかな?

    実際のところ本作品のほとんどの部分はベタで奥手な「ラブ」と爆発的なギャグの「コメ」で出来ている。特に「ラブ」は、なんだかんだでクラスの男子から人気のある美少女の大河を、語り部で家事をこなせるぐらいの長所しかないただの男子学生が「気遣う」という最近の作品にありがちなありえなさに彩られている。なぜか知らないがこのところのオタク向けラブコメは、放っておけない美少女を気遣う主人公というパターンがよく使われる。現実では際限なく強くなる女に圧倒され続ける男たちだというのに。

    一方で主に川嶋亜美にからかわれる主人公という構図も用意している。しかもこれは一方的ではなく亜美のほうが弱みを見せることもあるというようによく作りこまれている。このへんが他の作品と違うところなんだろうな。

    作者はこの手の男のオタク向けのライトノベルには珍しく(?)女性だそうである。あとがきで、たらこスパゲティを食いまくってものすごく太っていることを堂々と開陳している変な人である。こういう人だからこそ櫛枝実乃梨というものすごい変人キャラを描けたのだろうな。

    この作品には幻想の美少女や美少年はいない。リアルとは言いがたいがいずれも人間味のあるキャラクターばかりである。どうもこのところ、とにかく魅力的だけど非人間的で偶像的ないわゆる聖少女的なヒロインやヒーローというものが少なくなってきているように思う。どうしてなのだろうか。そういったものを期待する人には勧められないが、新たに興ってきたこの新しいタイプのラブコメが好きなら本作品も是非手に取ってみるといいと思う。

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