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    北尾トロ (文春文庫)

    まあまあ(10点)
    2008年5月27日
    ひっちぃ

    中年ライター北尾トロが東京地方裁判所などで裁判を傍聴したときの模様を伝えた連載記事を単行本にまとめたものを文庫本で再録したもの。

    この作品によって裁判の傍聴プチブームが起きたような覚えがある。女性だけの傍聴クラブみたいなものもあった気がするが、どっちが先なのだろう。

    最近週刊文春で作者の北尾トロが「ガラスの五十代」という連載記事を書いており、そこそこ面白いのでいつか著書を読んでみたいと思っていたら、ブックオフで105円で売っていたので買ってみた。何冊もあったからベストセラーだったんだろうな。にしてはあっさりみんな手放すものだ。

    題名が秀逸。私のようなひねくれものはこの題のせいで手に取るのが遅れてしまったが、多くの人に印象づけたと思う。裁判の重いイメージと対比的な、めちゃ軽い呼びかけ調なのが面白い。

    中年のベテランライターなせいか、まったく気負いがない。っていうかちょっとふざけてる。もちろんふざけているのは心の中だけだけど。不謹慎ながら面白い事件に出会いたいと願うのは読者の視点と重なる。そして謙虚。傍聴マニアの先輩たちから素直に教えを請うている。また、自分が被告として裁判に掛けられることもなくはないという風に自分の立場に置き換えて考えてみたりもしている。

    裁判というと人間ドラマという感じだが、本書では結構突き放した目線で見ている。というのもテレビドラマなんかと違って被告がしょぼいのだ。減刑してもらうために自分の身上を述べたり、肉親が涙ながらに嘆願したりするのだが、一歩引いて見てみると本当に彼らは言葉通りに反省したり更生させたりする気があるのかと分析してみせる。

    人を轢いて殺した被告がドクロマークのシャツを着ていたり、いままで散々子供を甘やかしていた親が自分を棚に上げて他人事のように子供を見ていたりする。

    あからさまにやる気のない弁護士とか、すごく仕事熱心だけど前歯が三本抜けたままカツゼツ悪くしゃべるおばあちゃん弁護士。たまたま見学で来ていた女子高生たちの前とあっていつもより声を張り上げて張り切る裁判官たち。

    わざとおちゃらけた書き方をしているのではなく(ひょっとしたらそういう部分だけを切り取ったのかもしれないが)、ありのままのおかしさをそのまま書いているところが素晴らしい。現実ってこんな感じなんだという、なまぬるーいリアルさがある。

    世の中のことを色々知るには良い一冊だと思う。特別な感動はないが、法治国家日本の仕組みの一端が窺い知れて、これまで漠然としか考えてこなかった「逮捕する!」「訴えてやる!」の先が見えた。

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