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    監督:松尾衡 原作・監修:PEACH-PIT

    傑作(30点)
    2007年5月28日
    ひっちぃ

    命を持ったアンティークドール同士が戦ったり和んだりする人気漫画のアニメ版。第一期と第二期が12話ずつに外伝的な過去の2話がいまのところ発表されている。

    原作マンガだとストーリーがよく分からないことになっているのだが、このアニメ版はうまいこと補修して意味を作り上げているように思う。私が原作を読んだ時は、絵や台詞回しは良かったが、ストーリーを語るに値しないと思ったので触れなかった。このアニメ版ならちゃんと評論が出来ると思った。

    まず、この作品で展開されているアリスゲームについて。人形師ローゼンと人形ローゼンメイデンたちとの関係は、言うまでもなく造物主たる神と人間たちを表している。戦いの歴史を持つ人間と人形をだぶらせ、生きているから戦うのだと人形に語らせているところは、戦いから逃げて引きこもっている主人公の少年ジュンとそして読者への訴えでないかと思う。思った。しかし…。

    ここでよく分からないのは、神は本当に人間に戦いを望んでいるのだろうか。人間同士戦って完璧になりなさいなんて教えている宗教はあるのだろうか。神とはキリスト教などの一神教の神とは違うのだろうか。競争社会の神のような存在なのだろうか。アリスゲームでは敗者が消えてしまうのだが、それは適切な喩えなのだろうか。単に悲劇性を付与するためだけの設定ではないだろうか。

    そもそもアリスゲーム自体がよく分からない。人形が全員揃ったら始まると言いつつ、揃っていなくても始まっているかのように見える。アリスゲームがこれまで何回も行われているように見え、アリスゲームのたびに一体の人形が失われるはずなのに、当初生み出された七体の人形はなぜまだ欠けていないのか。こんなシビアな設定にしたら戦うことの意味がズレてこないのか。その他、行き当たりばったりとしか思えない設定に設定が重ねあわされ、わけのわからない背景と筋書きが作り出されている。

    この作品に出てくる人形の中で唯一まともな人格を持っているのは水銀灯だけだと私は思う。もともと未完成品だったから、完成品で人形師に愛された真紅を憎んで戦いを仕掛けた。生まれつき障害を持って長期入院しつづける少女を人間のパートナーにし、欠陥品である自分や少女を嘲りながらも、少女を救うためにアリスゲームに勝とうとする。

    Wikipediaによるとアニメ版の監督・松尾衡がこの水銀灯を好きみたいで、この人が色々がんばったおかげで水銀灯というキャラがちゃんと成り立っているのだと思う。他の人形は、その性格付けが物語にとってなんの意味も持っていないどころか、一つ一つが単なるキャラ萌えのために気まぐれで付与されているとしか思えない。原作でうわべだけのシーンとして描かれた(?)「ジャンク呼ばわりしたことを水銀灯に謝罪する真紅」を、アニメ版がちゃんと拾って意味をつなげているのを見ると、アニメ版のスタッフはがんばっているなぁと思う。

    原作マンガのレビューで私がこき下ろした兄弟の話は、アニメ版では別の話になっていた。やっぱりあれはあのままでは成り立たないと思ったのだろう。代わりに老夫婦と事故で亡くなった息子の話になっている。このエピソードも微妙っちゃ微妙だけど一応話は成り立っている。

    結論すると、この作品のストーリーにはほとんど見るべきものがない。

    でもそれ以外の点は本当に素晴らしいと思う。まずなんといっても人形たちのデザインが素晴らしい。これほど絵になるキャラクタを一体じゃなく六体も(薔薇水晶は除いておく)作り出して、性格もそれぞれ個性的でいい。原作で唯一欠けていた完成度が、アニメでは原画屋さんたちの優れた仕事によりためいきが出るほど素晴らしい仕上がりになっている。声優も細かいことは分からないけどとてもいい感じ。音楽もオープニングとエンディングの曲とサウンドトラックどれもこの不思議な世界と合って作品を編み上げている。

    ああ、もう一つ苦言を言うと、戦闘シーンのアニメーションは美しいのだが、どちらがどれだけ押していて勝っているか負けているかが分かりにくい。何がどう作用して勝敗が動くのかはっきりしないので戦闘にまったく緊張感が感じられない。どちらが勝つことになっているのかただ見せられるだけという感じ。戦いの始まりと終わりのきっかけも意味不明だし。

    ストーリーさえ並かそれ以上の水準があればすごい作品になったと思うのだけど、良くも悪くもこの作品は日本アニメの素晴らしさとダメさ加減を両方とも多く持っている良い例だと思った。

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