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    谷川流 (電撃文庫)

    最高(50点)
    2007年4月8日
    ひっちぃ

    超能力者の少年少女を集めた三つの全寮制学園に謎のメールで依頼が届き、各校二名ずつが不思議な家出少女を追いかける青春っぽい道中と、なぜ少女を追いかけなければならないのか作品世界を構成する壮大な仕掛けを描いたSF小説。

    前の巻に引き続き黒衣の論理的少女・光明寺茉衣子が主人公格となり、白衣の猪突猛進男・宮野秀明と一緒に調査に行かなければいけない身の不幸を嘆きながら、第二EMP学園のでこぼこ男女コンビと共になんだかんだで青春っぽい道程を描いている。本作の魅力のほとんどはこの一見なんでもない旅の描写である。

    第二EMP学園の蜩(ひぐらし)というせっかちな少年は、相方の多鹿という少女のトロさにいつもイライラしている。だがまったく合わなさそうでも実はそれなりにうまくやっているという人間関係の描写が素晴らしい。言うまでもなくそれは本シリーズでの宮野秀明と光明寺茉衣子のことであるわけで、直接は語られないこの二人の関係を本作初出の二人が補足説明しているかのようである。

    それだけでは物語が成り立たないのでちゃんと筋があるわけだが、多元世界という設定を使った壮大な仕掛けが描かれ、作者のセンスに引き込まれる。まあ私が似たような話を知らないだけなのかもしれないが。結末があっけないのが難点だがそれを登場人物が語っているところも一興かもしれない。

    作者は別の作品でゲーデルの不完全性定理を登場人物に喋らせたりしているように、本作では数学基礎論にもとづいたSF的な思索を作品で展開している。それらは完全に虚構で、ちょっと考えたら一般性のなさからそんなに現実感を感じないのだが、これはこれで魅力のある世界設定ではある。一方で次作ではミーム(文化的遺伝子)や集合的無意識なんかの人文科学的な方向へも広げて語られ、まさに縦横無尽である。

    もう一つ特筆すべきなのは、蜩や多鹿の能力のサイキックな描写だろうか。手に汗握る戦いのシーンはこれまでにもあったが、楽しんで読めたとは言いがたかった。ちょっとありきたりで平凡だったからだろう。私は本作でようやく初めて超能力バトルが楽しめた。この分野の名作である荒木飛呂彦「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズと比べられるほど豊かで想像力にあふれたものだと思う。

    で、私の読む順序が逆になってしまったが、本シリーズはここまでの六冊で作者の中の区切りがついてしまったそうである。まだ構想はあるらしいので続編が書かれることを願うが、こっちのほうもアニメ化されてヒットしない限りあんまり期待できないようにも思う。

    本作はアニメ化は無理だろうなぁ。登場人物はどれもアニメ的な人物造形をしているのに。内省的すぎるのと、仕掛けが難しいこと、一つ一つのエピソードが長すぎること。それだけ本作が小説としてきっちり書かれたということを表している。表現にあった中身のほうがいいに決まっている。

    あと些細なことかもしれないが私にはどうもイラストがイメージに合わなかったのでだいぶ脳内補完している。これはこれでよく出来た絵なのだけど。

    しっかしこの作者の紡ぐアニメ的な女の子の言葉になっていない発声の表現はもう天才的と言っていいんじゃないだろうか。ここで一つ一つ紹介するとバカみたいだから指摘をするにとどめる。

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