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    草上仁 (ハヤカワ文庫)

    まあまあ(10点)
    2007年2月1日
    ひっちぃ

    人口が爆発した空想未来の地球で、ついに現時間に住めなくなった人々が過去や未来の一定の時間を借りて住むようになった世界での騒動を描いた表題作「時間不動産」その他五編のSF短編集。

    「時間不動産」は一発ネタ型のSF作品なので、設定自体を楽しむのが主で、ストーリーに重点はないことが多いのだけど、結末がどうなるのかドキドキして読ませてくれた一品だった。でも思い返すと結構たわいない筋か。タイムトラベル系の話は深く考えないほうがいい。

    「国民不在」はまず語り口が素晴らしい。読者がまるで酔っ払いに話しかけられているように(主観の主人公は別にいるのだけど)話が進んでいく。落語を聴いているようだ。ただの世間話のつもりが、この世界のとんでもない実態が徐々に掴めてくる恐ろしい話だ。「バキューム」が特に印象に残った。風刺が効いている。

    「ダ・ビ・ン・グ」も語り口が素晴らしい。モノを複製する機械のある世界での、やっぱりダメな学生たちのどうしようもない日常の一コマが馬鹿馬鹿しくて面白い。私の中ではこの短編集の中で本作が一番良かった。

    「蜂の幸福」は、企業の研究所から逃げた蜂を主人公が追いかける話で、ちょっとしたアドベンチャーと、ほんの少しの感傷で成り立っている。この作品で描かれる世界にはそれなりの魅力があるものの、突き抜けたものが感じられなかった。

    「嫌煙権」は純粋な一発ネタ型のSF作品で、私が一番嫌いなタイプだ。やはりこの作品も面白くなかった。どこぞの大学のSF研究会の同人誌の中の佳作ぐらいのレベルの作品だと思う。

    「明日にのばすな」は、SF的な設定を一つだけ加えた人間ドラマで、物語に引き込まれる。その設定というのが「事前服役制度」という犯罪を犯す前に服役しておけばその分はチャラになる権利が得られるというものだ。この説明だけで薄々感じたかもしれないが、やはりその設定に無理があることが終始引っかかって興をそがれた。結末もありきたりだし。

    というわけで本短編集は、私が草上仁の一番の魅力だと思っているぬくもりのあるSF的な良さをほとんど感じられない、どちらかといえばハズレの作品集だが、前半の三篇は期待を裏切らない良い作品だった。

    ちなみに私は本書をブックオフで100円で買った。

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