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    田中宇 (文春新書)

    傑作(30点)
    2004年9月10日
    ひっちぃ

    インターネット上で世界的に公開されている各国のメディアや団体のサイトからの情報収集を中心とした取材活動を行っているジャーナリストの田中宇が、アメリカの奇行に焦点を当てて新書としてまとめた本。

    私の好きなジャーナリストが私の好きな文春新書に書いてくれたのは非常に嬉しい。ますますもって文春新書が好きになった。

    内容を簡単にまとめると、最近のアメリカは失策を繰り返しているように見えるが、それらは実はわざとやっているのではないかということを、様々なソースから導き出して…いやそう考えざるをえないという筋道を示している。

    正直この人の個人サイトを読んでいる私からすると、あまり目新しい内容ではなかったが、エピローグではついに結論を出したかのかとスッキリした。このエピローグなしには、事実をまとめて取り出したに過ぎないからだ。田中宇は慎重なのではなく臆病なジャーナリストなのではないかとさえ思っていたが、エピローグでついに大局を語って自らの考えを明らかにした。

    その考えとは、もはや国家というものがパワーゲームの主体ではなくなりつつあるという、従来の常識からかけ離れたものだ。現在まで主流だった考え方は、世界を動かしている人々は、自分たちの国家を操って自分たちの国家の中にあって強い結びつきで自分たちの利益を追求してきた。ところが彼らはもはや自分たちの国家を必要とせず、むしろ強くなりすぎた国家(アメリカ)を弱体化させることで世界と自分たちの利益を安定化させようとしているというのだ。

    なぜそうなったのかというと、資本主義が全世界的にほぼ勝利を収めたからであろう。これまでは、ソビエトや中国などの共産主義国が、資本の論理ではなく力の論理で自分たちの利益を追求していたため、資本家たちは資本主義陣営の国々をまとめて対抗しなければならなかった。ところがほとんどすべての国が資本主義になった今、もはやたとえ資本主義国家といえども資本家の利益とは対立点が多くなってしまう。

    と以上のようなことをもっと大々的に語ってくれたら良かったのであるが、田中宇は結局エピローグの最後の四ページで歯切れ悪く産業革命を例に資本家を良心的に描いている。甘いなと思う。逆にユダヤ人問題に不要に切り込んでいるのも気になる(いや私はむしろ喝采したいのだが、新書としてはこちらを抑えるべきだろう)。

    この本を読んで、国際政治の面白さを知ってくれる人が多く出ることを願う。そして読んだらぜひ田中宇の個人サイトの読者になってほしい。

    ところで一時期田中宇をライバル視していた佐々木敏はエンターテインメントに逃げて金儲けに走っているようでがっかりだ。

    [参考]
    http://www.tanakanews.com/

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