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    猪瀬直樹 (文春新書)

    最高(50点)
    2002年11月27日
    ひっちぃ

    道路公団をなんとかするための委員として最近は有名になった作家の猪瀬直樹が、小論文の書き方を読者に伝授する本…かと思いきや、週刊文春でいまも連載されている「ニュースの考古学」のよりぬきに若干のコメントが加えられているだけのもの。これを「小論文の書き方」とするなら恐ろしく野心的な本だが、読んでいて普通に楽しめた。

    いきなり引き込まれる。えひめ丸がアメリカの潜水艦にぶつけられて沈んだ事件。戦艦ミズーリ保存会の人々が潜水艦にのっていたということに焦点を当てられるかがポイントだと読者に突きつける。ミズーリは日本の降伏文書調印が行われた戦艦だ。作者の筆は、老体に鞭打って敵の衆目の下で屈辱を味わった重光葵を描き出す。ビル数階分の高さのある甲板まで自力で上がった老人が、喉の渇きで水を欲しがったときに、むげに断ったアメリカ側。

    とはいっても猪瀬直樹自身は最近の日本見直し派とは方向が異なる。基本的に彼は、アメリカの光と闇の両方を見ており、日本は数ある国の中でアメリカに占領されたことは幸運だったとも書いている。

    という戦争関連の話は実は少なくて、今日まで続く道路公団をはじめとした特殊法人問題、力道山と柔道家・木村政彦の舞台裏、

    また戦争関連になるが、東条英機の人柄をしのばせるエピソードがとても面白かった。オープンカーに乗るヒトラーにあこがれたのか、雨の中でも幌をつけずに乗ったり、乗車が故障して時間に間に合わせるために菜っ葉大根を満載したトラックに飛び移ったりしたのだそうだ。

    日本語について。夏目漱石の「則天去私」など小説家の言葉はこれみよがしな自己顕示だとする司馬遼太郎の考えを紹介している。「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」は文学風で、本来なら「本日天気晴朗ナルモ浪高カルベシ」が質素で散文風なのだという。

    なにしろ新書なのに四百ページくらいあり、おおざっぱに言って二冊分くらいの容量があるので、いちいちエピソードを紹介していられない。よりぬきなので、あまり興味を引かないような話でもそこそこ面白い。10年分を一冊に押し込めたこの本は読む価値が高いと思う。どういう価値があるかというと、やはり雑学の書という評価が正しいと思う。

    ノンフィクション物の面白さを分かってもらうための最良の書の一つだといっていい。「日本の論点」なんていう本を一冊読むよりもいいんじゃないだろうか。

    [参考]
    http://www.inose.gr.jp/

    (最終更新日: 2002年11月27日 by ひっちぃ)

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