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    陳舜臣 (講演会「21世紀へのメッセージ」)

    傑作(30点)
    2002年9月12日
    ひっちぃ

    21世紀を迎える前の講演録なのでちょっと古いが、面白い話が出てきたので紹介したい。

    牛耳るという言葉は、支配するという意味で使うが、もとは中国の春秋戦国時代の故事から来ているらしい。同盟を取り仕切る人が、牛の耳を切って当事者たちに血を飲ませていたそうだ。略さないで言うと「牛耳を執る」。

    当時の中国で紀元前651年夏に「葵丘の盟」という盟約が結ばれたそうだ。そこではいくつかの決め事をしたそうなのだが、その中に『防を曲げる無し』つまり堤防を破壊工作で決壊させないこと、というのがあるそうだ。

    どんなに小さくて力のない国でも、相手の国の堤防を決壊させれば、相手の国を水浸しにして勝つことができる。しかし当然多くの人の命が失われる。作者はこれを現代の核兵器と同じだったと言っている。時代は下るが、宋の末期には水害で 100万人が死んだということも紹介している。

    ところがこの盟約が、2500年たって破られてしまったそうだ。1937年、日本軍が攻めたとき、中国の国府軍(国民党軍?)が足止めのために決壊させたらしい。その後、国府軍は敗れて台湾に逃げてくるが、それを見た一人の台湾人の年寄りが『ああ、これは葵丘で誓った盟を破ったからバチがあたったんだ』と小声で言ったのだそうだ。

    と、こんな例を持ち出しながら、過去より現代の方がいいなんてことは言えないんだ、という話をしている。

    もう一つはトルコを例に出しているのも興味深い。トルコはユダヤ人、アルメニア人、ギリシャ人と三つの大きな民族を抱えていて、それぞれ自治を認めて平和だったが、ロシアが別の地方に住むアルメニア人と共に攻めてきたときに、トルコは結託を恐れて自国のアルメニア人を虐殺してしまったと言っている。

    実に話がうまい。歴史小説の大家として見事。主張自体は単純だが、講演なのでこんなものなのだろうし、とても力強い。

    [参考]
    http://www.mainichi.co.jp/eye/
    21message/
    01.html

    コメント

    賢者 わたなべ
    さすが、あの先生はあいかわらずいいこと言ってるなぁ。葵丘の盟は斉の桓公が覇者になった会合だったように思う。対楚連合、みたいな感じで、外敵に対抗する必要があったのだ。なつかしいな。

    詳細

    核兵器の使いドコロ 芋愚
     「どんなに小さな国でも、相手の国の堤防を決壊させれば、相手の国を水浸しにして勝つことが出来る。」
    ...
    全文

    manuke.com