

よふかしのうた 13巻まで
コトヤマ (集英社 少年サンデーコミックス)
まあまあ(10点)
2025年8月24日
学校でうまくやっていたつもりだった中学生の男の子コウくんは、あるとき女の子に交際を申し込まれたが断り、それをみんなから非難されたので学校へ行くのが面倒になってしまう。夜の街をさまようようになった彼は、そこで一人の女の子ナズナと出会う。少年マンガ。
「だがしかし」の作者の作品ということで連載開始後わりとすぐに読んだ覚えがあるんだけど、最初ちょっと引かれたもののその後の展開が退屈だったので読むのをやめてしまった。アニメの2期が始まったので改めて読み直してみたら、まあまあおもしろかったけれど結局完走できなかった。
中学生の男の子が夜の街に出て夜の空気に触れる描写がとても鮮烈だった。団地の並ぶ街並み。街灯に照らされる夜道。なにか派手なことがあるわけじゃなくて、暗く静まり返った空間の中でなにをしているのかわからない人たちがちらほらいるだけだったが、コウくんはそこで自由の空気を覚える。そういえばはるか昔、自分もこの空気を嗅いだことがあったと懐かしく思った。
その後コウくんは不思議な女の子ナズナと出会い、彼女に誘われるがままに彼女の住むマンションへ行く。そこには布団が一組と枕が二つ置いてあって、添い寝をしようと言われる。彼女の雰囲気に呑まれた彼は、とりあえず話を合わせて適当に寝たふりをしてから抜け出そうとしたが、なんと彼女は彼の血を吸ってくるのだった。彼女は吸血鬼だった。
彼女から吸血鬼とはどんな存在なのかを聞いたコウくんは、吸血鬼に恋をした状態で血を吸われると眷属つまりその吸血鬼を親とした吸血鬼になれるということを知る。昼の世界にうんざりしていた彼は、自分も吸血鬼になりたいから恋をさせてくれと言う。
要するにこの作品は、まだ恋を知らない中坊の少年が、吸血鬼になって自由を謳歌したいというエサもあって恋をしてみようと毎晩女の子と一緒にすごす話なのだった。
この少年に共感できるだろうか?自分はできなかった。自分も中学生ぐらいのときは恋というものがあまりよくわかっていなかったけど、それでも中学三年生ぐらいの頃には仲良くなりたい女の子のことを意識するようになった。あ、コウくんはまだ中学二年生なんだっけ。自分が中二の頃は確かにまだわかってなかった。一方で恋をしなきゃダメなんだという圧を感じたこともなかったと思う。いまの若い人たちはどうなんだろうか。
それでもなんかこのコウくんってのは妙な設定で、女の子に告白されるほどモテているのに社交性はなくて友達が少ない。なんとなく求められるままに振舞ってきただけらしい。人の圧に抗えないほど自分には自信がない一方で、妙に芯は強くて自分の意見を主張するときは主張する。
読者である自分は吸血鬼の女の子ナズナちゃんのふるまいに魅力を感じ、こんな女の子と恋愛できたら楽しいんだろうなあと思って読み進めたのだけど、コウくんにとっては全然そんなことはなくて、一緒にいるのが楽しいような感じはしていても好きという感情を持つにはいたっていない。共感できるはずがなかった。
一方で吸血鬼ナズナちゃんのほうにも、コウくんと過ごすのは彼の血がとてもおいしいからという理由があった。ナズナちゃんはやたら下ネタが大好きで直接的なことを言ってくるのだけど、恋は苦手らしくてコウくんが恋愛について直球で話すと急に照れてしまう。なんだかよくわからないキャラだった。
コウくんもナズナちゃんも割と天然が入っていて、互いに意図せずすっとぼけたことを言って相手を戸惑わせたりするのがちょっとおもしろかった。
そんなコウくんも、ナズナちゃんと過ごしていくうちに自分の中に芽生える感情について気づいていく…と思ったら結局13巻まで読んでもまだ恋をしていなかったw
この二人以外にもキャラはいて、コウくんの幼馴染でちょっと風変わりな女の子アキラ、ナズナの添い寝屋に来たブラック企業のビジネスウーマンのキヨスミさん、コウくんのもう一人の幼馴染で人気者の男の子マヒル、そしてナズナの仲間(?)の吸血鬼たち。
二人目の吸血鬼、桔梗セリが意味不明すぎた。こいつは人と仲良くなりたくて、人間を誘惑して親密になるのだけど、その人間が恋愛感情を強く持つようになるとなぜか急に拒絶する。でもってその人間との関係が終わったことを嘆く。最終的にコウくんに説教(?)されて改める。友達づきあいしたいのに人の欲情に訴えることしかできない人っているんだろうか。友情だってその根っこに利害が絡むものなのだから、恋愛感情もその一種だと割り切れないものなんだろうか。
結局のところ、この作品に描かれるさまざまな思いはどこかおかしい感じがしてあまり深く入っていけなかった。
一方で、キャラ同士のやりとりはとても魅力的だった。前述の吸血鬼セリも、女子高生のなりをしてコウくんに活き活きと話しかけてくる。なぜ自分が金をもらっていろんな男と交際しているのか。それに対して純朴(?)な中学生のコウくんが疑問を投げかけていく。
ヒロインのナズナも奔放なキャラで、自分の衝動のままに好きなように生きている。コウくんの持つおいしい血が飲みたいというだけでなく、彼との遊びを楽しんでいる。彼とそれほど踏み込んだ行為はしないけれど、添い寝だけでなくキスをしてきたりもする。コウくんを夜の世界にいざなっていた彼女だったが、あるとき本当の気持ちを伝える。
吸血鬼の小繁縷ミドリはメイド喫茶で働いていて、かわいい自分が大好きというキャラなんだけど、コウくんからナシだと言われてからやたらとコウくんに執着するようになる。こいつには恋人がいるのだけど、意外なキャラでウケた。ギャグがとてもおもしろかった。
この作品での吸血鬼の弱点がとてもよかった。ニンニクとか十字架とかじゃなくて、それぞれの吸血鬼によって違っていて、物語展開にも関係していてスリリングだしドラマチックでもありなおかつとても説得力があった。
素足がよく描かれていて素足フェチの自分に刺さった。足(脚じゃなくて)って人間の一番獣っぽいところだと思う。アニメだと探偵さんの足が本当に生々しいシーンがあって、野性味があってほんとびっくりした。あまり露骨に見せられても引いてしまう。それに吸血鬼じゃなくて人間の探偵さんの野性味を出すことの演出的な意図がまるでわからなかった。
単行本全20巻で完結していて、10巻まではまあそれなりに楽しめたのだけど、11巻から急に露骨なバトル展開が始まり、13巻あたりで星見キクとの対決が全面的に始まったところで読み続ける気がなくなってしまった。とってつけたような能力バトルの設定が出てくるのはしょうがないにしても、そもそもここでバトル展開が始まる意味がわからなかった。登場人物の思いの結集として戦いになるんなら盛り上がれたかもしれないんだけど、そもそもその思い自体があんまり入ってこなかった。
この作品、キャラの外見や所作は魅力的なのだけど、各キャラが掘り下げられるたびに違和感を感じた。このキャラいいなあと思ったことは何度もあったけど、結果的に自分はどのキャラも大して好きになれなかった。沸点が低いけどなんでも恋バナ(恋の話)に持っていったら手打ちにすると言う平田ニコとか、ナズナに対して妙にいろいろな心配をする本田カブラとか、個性的でいいなあと思ったけどそこで止まってしまった。
これは自分の憶測なのだけど、キャラをいろんなものからのつぎはぎで作っているからこうなるんだと思う。たとえば現実の誰かだとか、そうでなくても創作物の誰かをモデルにした場合、たとえその人物の表層しか描かなかったとしても、表層に出てくるものは深層から出てくるので、なんらかの一貫した人物像が浮き上がってきてそのキャラを好きになったり嫌いになったりする。でもつぎはぎで作ってしまうと、要素要素には引かれてもそのキャラ自体を好きになるところまではなかなか行かないんじゃないだろうか。
まあ単に自分の好みじゃなかったってだけかもしれないけど。
ただ言えるのは、正直コウくんとナズナちゃんの恋の行方がどうなろうと自分は大して興味が持てなかった。吸血鬼が滅んでしまおうがどうでもよかったし、探偵さんの思いが報われてほしいとも思わなかった。
というわけであまり人に勧めようとは思わないんだけど、10巻ぐらいまでならこういう作品もあるということで消費してみてもいいかもしれない。
「だがしかし」の作者の作品ということで連載開始後わりとすぐに読んだ覚えがあるんだけど、最初ちょっと引かれたもののその後の展開が退屈だったので読むのをやめてしまった。アニメの2期が始まったので改めて読み直してみたら、まあまあおもしろかったけれど結局完走できなかった。
中学生の男の子が夜の街に出て夜の空気に触れる描写がとても鮮烈だった。団地の並ぶ街並み。街灯に照らされる夜道。なにか派手なことがあるわけじゃなくて、暗く静まり返った空間の中でなにをしているのかわからない人たちがちらほらいるだけだったが、コウくんはそこで自由の空気を覚える。そういえばはるか昔、自分もこの空気を嗅いだことがあったと懐かしく思った。
その後コウくんは不思議な女の子ナズナと出会い、彼女に誘われるがままに彼女の住むマンションへ行く。そこには布団が一組と枕が二つ置いてあって、添い寝をしようと言われる。彼女の雰囲気に呑まれた彼は、とりあえず話を合わせて適当に寝たふりをしてから抜け出そうとしたが、なんと彼女は彼の血を吸ってくるのだった。彼女は吸血鬼だった。
彼女から吸血鬼とはどんな存在なのかを聞いたコウくんは、吸血鬼に恋をした状態で血を吸われると眷属つまりその吸血鬼を親とした吸血鬼になれるということを知る。昼の世界にうんざりしていた彼は、自分も吸血鬼になりたいから恋をさせてくれと言う。
要するにこの作品は、まだ恋を知らない中坊の少年が、吸血鬼になって自由を謳歌したいというエサもあって恋をしてみようと毎晩女の子と一緒にすごす話なのだった。
この少年に共感できるだろうか?自分はできなかった。自分も中学生ぐらいのときは恋というものがあまりよくわかっていなかったけど、それでも中学三年生ぐらいの頃には仲良くなりたい女の子のことを意識するようになった。あ、コウくんはまだ中学二年生なんだっけ。自分が中二の頃は確かにまだわかってなかった。一方で恋をしなきゃダメなんだという圧を感じたこともなかったと思う。いまの若い人たちはどうなんだろうか。
それでもなんかこのコウくんってのは妙な設定で、女の子に告白されるほどモテているのに社交性はなくて友達が少ない。なんとなく求められるままに振舞ってきただけらしい。人の圧に抗えないほど自分には自信がない一方で、妙に芯は強くて自分の意見を主張するときは主張する。
読者である自分は吸血鬼の女の子ナズナちゃんのふるまいに魅力を感じ、こんな女の子と恋愛できたら楽しいんだろうなあと思って読み進めたのだけど、コウくんにとっては全然そんなことはなくて、一緒にいるのが楽しいような感じはしていても好きという感情を持つにはいたっていない。共感できるはずがなかった。
一方で吸血鬼ナズナちゃんのほうにも、コウくんと過ごすのは彼の血がとてもおいしいからという理由があった。ナズナちゃんはやたら下ネタが大好きで直接的なことを言ってくるのだけど、恋は苦手らしくてコウくんが恋愛について直球で話すと急に照れてしまう。なんだかよくわからないキャラだった。
コウくんもナズナちゃんも割と天然が入っていて、互いに意図せずすっとぼけたことを言って相手を戸惑わせたりするのがちょっとおもしろかった。
そんなコウくんも、ナズナちゃんと過ごしていくうちに自分の中に芽生える感情について気づいていく…と思ったら結局13巻まで読んでもまだ恋をしていなかったw
この二人以外にもキャラはいて、コウくんの幼馴染でちょっと風変わりな女の子アキラ、ナズナの添い寝屋に来たブラック企業のビジネスウーマンのキヨスミさん、コウくんのもう一人の幼馴染で人気者の男の子マヒル、そしてナズナの仲間(?)の吸血鬼たち。
二人目の吸血鬼、桔梗セリが意味不明すぎた。こいつは人と仲良くなりたくて、人間を誘惑して親密になるのだけど、その人間が恋愛感情を強く持つようになるとなぜか急に拒絶する。でもってその人間との関係が終わったことを嘆く。最終的にコウくんに説教(?)されて改める。友達づきあいしたいのに人の欲情に訴えることしかできない人っているんだろうか。友情だってその根っこに利害が絡むものなのだから、恋愛感情もその一種だと割り切れないものなんだろうか。
結局のところ、この作品に描かれるさまざまな思いはどこかおかしい感じがしてあまり深く入っていけなかった。
一方で、キャラ同士のやりとりはとても魅力的だった。前述の吸血鬼セリも、女子高生のなりをしてコウくんに活き活きと話しかけてくる。なぜ自分が金をもらっていろんな男と交際しているのか。それに対して純朴(?)な中学生のコウくんが疑問を投げかけていく。
ヒロインのナズナも奔放なキャラで、自分の衝動のままに好きなように生きている。コウくんの持つおいしい血が飲みたいというだけでなく、彼との遊びを楽しんでいる。彼とそれほど踏み込んだ行為はしないけれど、添い寝だけでなくキスをしてきたりもする。コウくんを夜の世界にいざなっていた彼女だったが、あるとき本当の気持ちを伝える。
吸血鬼の小繁縷ミドリはメイド喫茶で働いていて、かわいい自分が大好きというキャラなんだけど、コウくんからナシだと言われてからやたらとコウくんに執着するようになる。こいつには恋人がいるのだけど、意外なキャラでウケた。ギャグがとてもおもしろかった。
この作品での吸血鬼の弱点がとてもよかった。ニンニクとか十字架とかじゃなくて、それぞれの吸血鬼によって違っていて、物語展開にも関係していてスリリングだしドラマチックでもありなおかつとても説得力があった。
素足がよく描かれていて素足フェチの自分に刺さった。足(脚じゃなくて)って人間の一番獣っぽいところだと思う。アニメだと探偵さんの足が本当に生々しいシーンがあって、野性味があってほんとびっくりした。あまり露骨に見せられても引いてしまう。それに吸血鬼じゃなくて人間の探偵さんの野性味を出すことの演出的な意図がまるでわからなかった。
単行本全20巻で完結していて、10巻まではまあそれなりに楽しめたのだけど、11巻から急に露骨なバトル展開が始まり、13巻あたりで星見キクとの対決が全面的に始まったところで読み続ける気がなくなってしまった。とってつけたような能力バトルの設定が出てくるのはしょうがないにしても、そもそもここでバトル展開が始まる意味がわからなかった。登場人物の思いの結集として戦いになるんなら盛り上がれたかもしれないんだけど、そもそもその思い自体があんまり入ってこなかった。
この作品、キャラの外見や所作は魅力的なのだけど、各キャラが掘り下げられるたびに違和感を感じた。このキャラいいなあと思ったことは何度もあったけど、結果的に自分はどのキャラも大して好きになれなかった。沸点が低いけどなんでも恋バナ(恋の話)に持っていったら手打ちにすると言う平田ニコとか、ナズナに対して妙にいろいろな心配をする本田カブラとか、個性的でいいなあと思ったけどそこで止まってしまった。
これは自分の憶測なのだけど、キャラをいろんなものからのつぎはぎで作っているからこうなるんだと思う。たとえば現実の誰かだとか、そうでなくても創作物の誰かをモデルにした場合、たとえその人物の表層しか描かなかったとしても、表層に出てくるものは深層から出てくるので、なんらかの一貫した人物像が浮き上がってきてそのキャラを好きになったり嫌いになったりする。でもつぎはぎで作ってしまうと、要素要素には引かれてもそのキャラ自体を好きになるところまではなかなか行かないんじゃないだろうか。
まあ単に自分の好みじゃなかったってだけかもしれないけど。
ただ言えるのは、正直コウくんとナズナちゃんの恋の行方がどうなろうと自分は大して興味が持てなかった。吸血鬼が滅んでしまおうがどうでもよかったし、探偵さんの思いが報われてほしいとも思わなかった。
というわけであまり人に勧めようとは思わないんだけど、10巻ぐらいまでならこういう作品もあるということで消費してみてもいいかもしれない。
[参考]
https://web.archive.org/web/
20230923153928/https://
websunday.net/work/724/