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龍ヶ嬢七々々の埋蔵金 4巻まで

鳳乃一真 (KADOKAWA エンターブレイン ファミ通文庫)

まあまあ(10点)
2020年8月9日
ひっちぃ

高校生男子の八真重護は家業を継ぎたくないと親に反抗したところすぐさま家を追い出され、高校を卒業するまでは仕送りしてやるからと人工学園島「七重島」にある全寮制の高校に放り込まれる。そこは七人の若者が作り出した教育特区のような場所で、なかでもその一人である龍ヶ嬢七々々は必要な資金を一人で稼ぎ出した天才と言われているが数年前に何者かに殺されていた。八真重護が安アパートを契約したところ、彼女の地縛霊が部屋に居ついていた。ライトノベル。

数年前にアニメ化されたのを見て面白かったものの、どこかアニメでは描き切れていないような飢餓感があったのでいずれ原作を読もうと思ってずっと放置していた。このたび夏休みをとって時間が出来たのでやっと読んでみた。面白いっちゃ面白いけれどあまり登場人物に思い入れることができず話もそれほど読み続けたいと思えなくなってきたので4巻でいったん読むのをやめた。

まず主人公の八真重護くんの長い独白から始まる。なにやらうまくいかないことが重なり、そのせいでいままで我慢していた家業への不満を父親にぶちまけたところ、あっさりと勘当(親との縁を切る)(を予告)されてしまい、問答無用で学園島へ渡るところまでが一息で描かれる。

正直この導入部は不安しかなかった。重護くんはなんとクラスの気になる女の子にラブレターを送りそれをクラスメイトに回し読みされたのをやけっぱちなのか明るく読者に開陳してみせる。なんか古いしこいつ一体なんなのとしか思えなかった。で運よく見つけた安アパートには缶ビールを飲みまくる妙齢の美しい女性の管理人がいて気安く話しかけてくる。機動新世紀エヴァンゲリオンの葛城ミサトしか浮かばなかった。

なぜアパートの家賃が安いのかというと事故物件だからで、冒頭で言ったように美少女の霊が居ついているから。仕送りが少なくてほかに行くところがないのでそこに決めた重護少年は、毎日ネットゲームばかりしている彼女となんとか一緒に暮らしていく。そのうち彼女が島の重要人物だったことを知り、彼女を殺した犯人を突き止めてほしいと彼女自身に頼まれる。

数年前に起きた殺人事件を何の力もない一介の高校生が捜査出来るはずはなかったが、この島には彼女が世界中から集めた通称「七々々コレクション」という不思議な力を持った道具がいくつもあり、それらを手に入れればその願いは叶うかもしれないことを知る。

そしてある夜、重護は偶然その一つを拾ってしまう。

というか一巻には叙述トリックがあってそのせいでレビューを書きにくいのだけど、もうだいぶ前の作品だしいまさら読みたいと思うような人はきっと少ないだろうから軽くネタバレをするので、そんなに興は削がれないと思うけれど知りたくない人はこの先を見ないほうがいいことをいったん断っておく。

実は重護の実家は江戸時代から続く義賊「祭」の一家であり、重護は生まれながらにその頭目を継ぐことになっていた跡継ぎ息子だったのだ。

重護が七々々コレクションの一つを手に入れてすぐに、名探偵を名乗る謎の金髪美少女の壱級天災(いっきゅうてんさい)が現れて重護につきまとうようになる。このネーミングセンスは西尾維新かよと思った。こいつは自分が名探偵であるからにはライバルが必要だと考え、わざわざ重護の学校に転校し彼に張り付いて犯罪をそそのかすのがウケた。こいつは頭の回転が非常に早いせいか常に言葉足らずなところがあり交友関係も限られているという天然の女の子で、重護に負けず劣らずお調子者で態度もでかい一方で抜けているところもあり重護を振り回すようになる。こいつが構造上は正ヒロインなんだと思う。かわいい。

彼女には常に付き従う従者の星埜ダルクという褐色肌の外人メイドっぽい女の子がいるのだけど、実は彼女は男の子で女装させられているだけなのだった。あざとい。

ほかに重護の在籍する第三高等学校には七々々コレクションを捜す活動をしている「冒険部」というものがあり、成り行き上そこの門を叩くこととなる。近年大した実績を上げられていない中で部をまとめているメガネ男子の唯我一心と、彼に対して盲目的な愛情を抱きそれ以外の男は虫けらのようにしか思っていない格闘家の茨夕、それに忍者の家系で育った徒然影虎という三人の上級生がいた。一巻は彼らとともに高層ビル内にある「遺跡」に入って七々々コレクションの一つを手に入れようとする話+αとなっている。

アニメの内容を完全に忘れていたのでWikipediaに載っていた各話リストを見てみたらアニメは原作3巻までをカバーしているみたいだった。4巻はエピソード0として生前の龍ヶ嬢七々々が中華圏の怪しいカジノで大金を得ようとする話になっている。結構面白かった。

じゃあなんで途中で読むのをやめるんだという話になる。

まず主人公の八真重護についてなのだけど、こいつはほどよく強くて特に3巻の戦闘シーンが熱かったり、軽い身のこなしと手先の技術によりさくっと遺跡を攻略してみせたりと、能力的に非常にバランスがとれていて絶妙だと思う。精神的にも、世のため人のために働くということに嫌気がさしつつ、一人の女の子のために努力するようになるという成長の片鱗を見せていて、これからどうなっていくのか楽しみなキャラだった。

こいつは健全な青少年として一人の女の子と深い仲になりたいと常々思っているけれど、七々々のことは女の子として意識しているものの彼女は霊体なので対象にならない。名探偵の金髪美少女壱級天災については時々照れる程度には意識するけれどこいつの性格が仇となり恋愛対象とは見ていない。そして2巻で出てくる幼馴染の不義雪姫のこともお世話になったお姉さんとしか思っていない。クラス委員長の夢路百合香のことは多分あんまり意識していない。

一方で彼女たちはなにかしら重護に対して好意を持っているっぽいのだけど、重護は鈍感なのでそれに気づかないし、というか読者にもあまり伝わってこない。特に2巻の雪姫とのエピソードはひどかったと思う。彼女は義賊「祭」を補佐する一族なので、いずれ重護とは結婚するはずだったことがほのめかされているのだけど、重護にとっては初恋の人ということで既におわっていたし、彼女の好意にも一切気づいていなかった。2巻はそんな彼女の想いが爆発するところが一番盛り上がるところなのだけど、読んでいていまいち高ぶらなかった。重護が鈍感すぎて彼女の気持ちを受け取れなかったからだと思う。

正ヒロイン(?)の壱級天災は重護の思わぬ言動や行動に赤面するシーンがあるけれど、重護のことをどう思っているのかまでは想像できなかった。名探偵にはライバルが必要だということを隠れ蓑にしているんだと思うんだけど、その気持ちがまったく伝わってこなかった。それに、名探偵になりたいという強い想いに対してそれほど共感できなかった。こいつは天才すぎるから作中でも説明されているとおり言葉が足りなくなる。だからこいつ自身に語らせちゃいけないんだと思う。なんだかんだでこいつが重護に対して好意を持っていることや名探偵への想いを行動や他人の口から説明されないと伝わってこない。付き人の星埜ダルクがたまに重護に対して嫉妬する露骨な描写があるけれど、恋愛絡みというよりは純粋に彼女の興味の対象となっていることを羨ましく思っているぐらいにしか取れなかった。3巻で一人落ち込んでいる描写もすごい自己完結してるし。

3巻までの話で一番主人公しているのはなんと冒険部部長のクソメガネこと唯我一心なのだった。こいつ深掘りする前にもっと描写しなきゃいけないキャラが何人もいるだろうと思った。しかもこいつの数少ない取り柄が女にモテることなのだからウケる。こいつの物語もなんというか浅い。

他にも書いていったらキリがないけれど、つまるところ人物の描写がいまいちということに尽きる。話の筋は面白いのに、登場人物にあまり魅力がないので思い入れることができなかった。それとも単に自分の感受性がないのであれこれ想像して魅力を感じることができないだけなんだろうか。

4巻の話の展開から落としどころまでがほんと素晴らしかったので、この先きっと筋書きは面白いんだろうなと思うんだけど、このまま読んでいってもきっと自分は満足できないんだろうなと思ったのでこれ以上読むのをやめた。

というわけで、それなりに面白いのは確かなので、合いそうなら読んでみるといいと思う。

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