評 review の RSS
評 review の静的版 とその ziptar.gz
表 top
評 reviews
称 about us
・ 全カテゴリ
  ・ ハードウェア
    ・ オーディオ・ビジュアル

Atlas

Campfire Audio (ALO Audio)

傑作(30点)
2019年12月30日
ひっちぃ

アメリカのオーディオ専業ガレージメーカーALO AudioがCampfire Audioのブランドで出したダイナミック型の高級イヤホン。鏡面仕上げされた美しいステンレスのボディの中から、ダイヤモンドっぽい炭素粉末でコーティングされたベリリウムの振動板が、迫力のある重低音と鮮やかな高域を響かせる個性的なモデル。

ALO Audioの2019年のブラックフライデーのセールでOpen Box(開封品)が749ドルで売られていたので衝動買いした。ハイブリッド型のSolarisと迷ったのだけどまだ1,099ドルと高くて自分の十万円ルールから逸脱してしまうのと、Bellsingという中国のパクりメーカー製のドライバが使われていて信頼性が不安だったのと、ついでに音が優等生すぎるというネットの評判に萎えたのでやめた。というか自分がAtlasに決めたのは同社の前世代のフラッグシップモデルであるVegaを以前買っていて非常に気に入っていたのと、ネットで音がすごい鮮烈(?)だと評判だったから。

ALO Audioのdealsというアウトレット専用サイトで買ったのだけど、配送が超有名な航空便FedEx一択なので60ドルちょっと掛かった。で、火曜の夜に注文したものが金曜の夕方に届いてびっくりした。DHLや中国郵政なんかだと十日以上掛かる。でもやっぱり安い方がいいかも。今回は他にケーブル類を四つ頼んだから大きめの箱で届いたのだけど、イヤホン一個だけだったら30ドルちょっとかもしれない。で、あとになって輸入消費税の請求書が届いたのでさらに六千いくら払った。アメリカのアマゾンだとそういうのが込み込みだけど、小さいサイトだとそういうのがないから注意。

音についてまず言うと、評判通り重低音が異次元のように存在感あってびっくりした。「重低音がすごい」という誉め言葉は、普通は安いミニコンポやヘッドホンなんかでよく使われるのだけど、こいつに対してもまったく同じ言葉を向けてしまう。ただし、その意味はまったく異なる。イヤホンは小さくて構造的に重低音が得意ではないので、いかに高級モデルといえども引き締まった低音と言われて質はよくても量が物足りなかったり、逆に量が十分でも質がともなわずボワついていたりする。しかしこいつの低音はブリブリと質がいい上に量感がたっぷりある。

こいつの重低音がなによりすごいのは他の帯域をほとんど邪魔しないところ。ここまで低音が出ていると今度は高域が埋もれてしまいがちになるところなのだけど、こいつの場合は低域が別の場所で鳴っているかのようにしっかりと分離して聴こえる。ネットなんかで言われている「異次元で鳴っている」という表現はまさにこれを指しているんじゃないだろうか。たぶん低域がとても正確に鳴っているのでヘンな倍音が出ておらず高域を邪魔しないのだと思う。

そして重低音だけではなくて高域もこれまた美しくて存在感のある音を出す。憶測だけどA.D.L.C(ダイヤモンドっぽい炭素粉末によるコーティング)による非常に硬い振動板があまりたわむことなく正確に振動することできれいな高域が出ているのと、高域を減衰させるもととなる音導管がなく音が直接耳に届くからだと思う。

じゃあまさにこいつが最強のイヤホンかと言われるとそういうわけではなくて、聴き比べてみると前作Vegaのほうが正確な音が出ていると思う。もう完全な憶測なのだけど、Atlasはドライバの直径が大きすぎるんじゃないだろうか。9mmと10mmだとそんなに違いがないようにも思うけれど、その1mmの差のせいで音のバランスが少し崩れたんだろうか。それにステンレスのボディも前作Vegaの液体金属のと比べたら音響的にあまり正確じゃない気がする。

しかしAtlasのほうが分かりやすい音が出ているのは確かで、その理由は小細工せずに正面から音を出しているからだと思う。Vegaの場合は短いながらも音導管があって斜めに音を伝えているのに対して、Atlasは筒形のボディから音が一直線に耳へ向かうようになっている。Vegaの形状は音が内部で反響する造りになっているからなるべく変な振動をしないように流体金属を使ったけれど、Atlasの場合は音を直に耳に送るから反響をそれほど気にする必要がない。それよりもドライバ自体の振動が強力なので均等にボディに吸収されるよう筒形の形状にし、材質も安定しているステンレスにしたんじゃないだろうか。

ちなみに筒形のボディというと日本のfinalを思い出すけれど、同社は逆に最新のフラッグシップモデルであるA8000を耳にフィットしやすいShureやWestoneのような形にしている。たぶん筒型にすると元気のいい音にはなるけれど繊細な音にはならないんじゃないだろうか。

自分はCOWONのPLENUE Sというウォーム系のプレイヤーをメインに使っているのだけど、こいつだとAtlasよりもVegaのほうがいい音が出ていると感じる。PLENUE Sはノイズが少なくて落ち着いた音づくりなのでVegaのほうが完成度の高い音が出ているのだと思う。

ところがサブ機のONKYO GRANBEATで聴くと逆転する。Vegaが中途半端な音になるのに対して、Atlasはとてもみずみずしい音がする。ESSの切れ味のある音がAtlasに合っているのだと思う。

筒形のボディであるAtlasは装着感が独特でちょっと困る。耳の穴から一直線に筒が出て、そこから斜めにMMCX端子がつくので、そのままだといわゆるShure掛けのためのワイヤーが耳に掛からない。そのせいか、付属しているケーブルにはワイヤーが入っていない。どうやって装着するのが正しいのか特に説明がないので、自分はゆるく耳に回して少しでも重量を支えてくれるようにしている。割り切って耳からぶら下げてもいいけれど、重力で徐々に抜けていってしまう。これを防ぐには付属の低反発ウレタンかfinal Eタイプのイヤーピースを使って耳栓のように固定するのが一番簡単だと思うけれど、自分はちょっとゆるいJVCのSpiral Dotを愛用しているので微妙に苦労している。手持ちだとSpin Fitが一番装着しやすかったけれど、音が遠くなるのですぐにやめた。

ケーブルのほうも付属以外でいくつか試してみたのだけど、前述のワイヤー問題でどれも耳に合わなかったし、音のバランス的にも付属のが一番良かった。付属しているのはPure Silver Litzという純銀線(銀メッキじゃなく全部銀)で、ワイヤーがないので自由に耳に掛けられるし、とても軽いのでそのまま耳からぶら下げることも一応できる。なので本当は一緒にこいつのバランスケーブルも買いたかったのだけど、転売屋がいたみたいで在庫が切れており、セールが終わると同時にヤフオクなんかで大量出品されているのを見た。

というわけで、落ち着いた繊細な音を聴きたい人にはまったく勧められないけれど、元気で鮮やかな音が聴きたければとてもいいイヤホンだと思う。

(最終更新日: 2019年12月31日 by ひっちぃ)

コメントする 画像をアップする 戻る

Copyright © manuke.com 2002-2024 All rights reserved.