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PLENUE S

COWON

傑作(30点)
2019年3月24日
ひっちぃ

韓国のオーディオメーカーCOWONが2016年頃に出した最高級携帯音楽プレイヤー。米バーブラウン製の高音質ながらちょっと古くて扱いづらいと言われているDACチップを使いながら、丁寧な設計により極めてノイズの少ないきれいな音を出すのが特徴。

革ケースつき
本体のサイズはそこそこ大きいけれど十分胸ポケットに入る

2018年秋のヘッドホン祭りで同社の新しいハイエンド機PLENUE Lが試作品として出展されていたので試聴したところ、とても繊細でアナログ感あふれるいい音だったのでちょっと感動して手に入れたくなったのだけど、最高級機だけあってお値段も二三十万ぐらいになるとのことで手が出せそうになかった。据え置き機ならともかく、こういう持ち運ぶものは落として壊しても精神的に耐えられるぐらいの値段じゃないと買えない。

ところが新製品が出るとなると既存製品が安売りされるのが常で、現行で最高機種だったこのPLENUE Sが年末に突如アメリカのアマゾンでなんと699ドルで投げ売りされだした。とは言ってもアマゾンとはいえ海外の通販なので初期不良にあたった時のことを考えて躊躇し、減っていく在庫をにらみながら迷っていたのだけど、年が明けてフジヤエービックの正月のセールに自分の欲しいものがなかったのを確認したうえで結局購入した。送料と通関手数料込みで日本円で大体九万弱ぐらい掛かったけれど、普通に家電量販店で買うのと比べて半額以下で手に入ったことになる。その前にフジヤエービックで一台だけセールで出ていたけれどそれでも確か13万ぐらいした。

買おうかどうか悩んでいるときにネットで色々と情報収集したのだけど、結果的に大体評判どおりだった。自分が試聴したPLENUE LとこのSとは音の傾向がちょっと違うというのも分かっていたけれど問題なかった。別にアナログ感のある音を求めていたわけじゃなくて、COWONの製品を試してみたかったのと高級な音楽プレイヤーを安く手に入れたかったというのが大きかった。

こいつを買うまではコンデンサー型のShure KSE1200が最強のイヤホン(+ヘッドホンアンプ)だと信じていたのだけど、このPLENUE SにCampfire Audio VEGAを組み合わせたのが自分の手持ちの中で最強になった。VEGAの代わりにAstell & Kern (beyerdynamic) T8iE mk2やJH Audio Roxanne IIあたりまではKSE1200よりも音がいい気がする。ただし、あとで言うようにこいつの音は繊細なので静かな環境でないと完全に実力を発揮できず、ある程度以上の騒音がある場合はKSE1200のほうが気持ちいい音を出してくれるように思う。

本機の音の最大の特徴は、とにかくノイズが少ないこと。たとえばFiio X7 mk2 + AM5だと押しの強いギンギンの音を出してくれる反面、ちょっと音が荒くてノイズ成分を多く含んでしまっており、常に超高域がシャリシャリしていて聴き続けているうちに耳が疲れてくる。一方で本機は正直情報量で言えばX7 mk2にちょっと劣っていると思うのだけど、ノイズが少ないので感覚的にX7 mk2よりも音が濃く感じられる。仮にX7 mk2が100の情報量に20のノイズで差し引き80だとすると、本機は95の情報量に5のノイズで差し引き90って感じだと思う。

そのせいだと思うのだけど本機はWestone W60やNuforce HEM8との相性が悪いみたいで、あまりパッとしない音になってしまった。自分の憶測だとこいつらは心地よいビビり(歪み)を効かせるモデルで、超高域をザラザラと耳に気持ちよく引っかかる音にしてくれると思っている。このタイプのイヤホンは、多少のノイズも込みで気持ちよく鳴ってくれるので低ノイズのメリットがあまりなく、むしろノイズの少ないプレイヤーで鳴らすとイヤホン自体がノイズ成分を出してしまうのでせっかくの澄んだ音が濁ってしまう。先の例で言うと、X7 mk2と本機とでは情報量で100と95の勝負以上にX7 mk2のノイズが心地よく響いてくれるので、数字であらわす以上に差があるように感じた(数字は元々適当だけど)。

同様に、安いイヤホンなんかは高域の歪みを目立たなくするよう高域を丸めている場合が多いので、やはり本機の低ノイズのメリットがあまり活きない。こいつと相性がいいのは、とにかく基本的なスペックが高いイヤホンだと思う。あと余計なチューニングをしていないこと。そんなに高くないイヤホンの中でも、finalのMake 3というDD一発のシンプルなやつとは比較的相性が良かった。BAでも小細工がないモデルなら問題ないと思う。実際Roxanne IIも気持ちよく鳴ってくれた。

自分の手持ちではFiio X5 2ndと音の傾向が似ていた。それもそのはずDACチップが同じバーブラウンのPCM1792Aだから(笑)。五万円クラスのと二十万クラスのとで同じDACチップを使っているのは意外だったけれど、周辺回路に差があるということなのだろう。

操作性について言うと、まず起動が早いのが地味に便利だった。独自OSを使っているおかげでAndroid系のOSを採用しているプレイヤーより大幅に早い。同じく独自OSを採用しているパイオニアのXDP-30Rも早いけれど曲のスキャンとかでもたつく。入れている曲数が違うので単純比較は出来ないのだけど、PLENUE Sを使っているときは起動に掛かる時間をストレスに感じたことはなかった。

ユーザインタフェースはちょっと独自なところがあるけれど大体問題なく感覚的に使えた。ただし、アルバム一覧にアーティスト名が表示されないのが地味に不便だった。設定で変えられると思って探してみたのだけど見つからなかった。曲を選択すれば表示される。単に自分の勘がにぶっているだけなんだろうか。フォルダスルー再生とか再生リストへの曲の追加みたいな機能も見つからなかったので、再生が終わるたびに曲を選んでいる。自分が一番助かっているのは、電源を落としても再生中の位置を記憶してくれているところ(この当たり前のことができないプレイヤーが多すぎる)。

Bluetoothが使えない。Android系のプレイヤーだと当たり前のように無線が使えるので意外だった。というか独自OSのXDP-30RでさえBluetooth使えるんだけど。(ただしコーデックはSBSのみ)。

JetEffectという高機能なイコライザがついている。評判がいいので試してみたけれど、自分にとってはいまいちだった。上位機種で使っても素の音がいいのであまり意味がないんだと思う。

バランス出力がある。ただし3.5mmで4極という極めてマイナーな端子を使っている。この規格はソニーのNW-ZX2という機種も採用していたけれど、バランス出力は現在Astell&Kernが流行らせた2.5mmとソニーがこれから流行らせようとしている4.5mmとに分かれており、3.5mmはもはや絶滅に瀕している。3.5mmはアンバランスと同じ太さなので間違って差すと機器が故障しかねないのが最大の理由のようだった。ちなみにCOWONはPLENUE 2 mk2で2.5mmに転んだかと思ったらPLENUE Lで4.5mmに鞍替えしている。

2018年頃までは3.5mm 4極のケーブルが時々投げ売りされていたのだけど、今年に入ってからはほぼ市場からなくなってしまった。それでもヨドバシカメラ新宿西口本店なんかにBeat Audioのケーブルが投げ売りされていたりもしたのだけど、悩んだあげく結局自分は買わなかった。というのも3.5mm 4極のケーブルをイヤホンにつけてしまうと本機専用になってしまうから。

代わりに自分が選んだのは、MEE Audioが出している各種変換アダプタつきのケーブルだった。2.5mm MMCXのケーブルに3.5mmの通常のプラグやバランス用のプラグや4.5mmのプラグに変換するアダプタが各種ついてくるので、プレイヤーの使い分けが容易にできる。イヤホン側のMMCX端子や特に2pinなんかはそんなに抜き差し回数が保証されていないし、異なる端子のプレイヤー同士の聞き比べもすぐにできる。ただ、付属のケーブルのMMCX端子の出来がイマイチで、最初に買ったやつは少し使っているうちに接触不良を起こしたので初期不良として交換してもらった。交換後の製品と、さらにのちにMassdropで59ドルだったから追加で買ったものも加えて、いま手元に二つあるのだけど、やっぱりちょっと緩くて触ると音が途切れることがある。ケーブル自体の品質はリッツ線で取り回しもよく音もまあまあいいだけに残念だった。

COWONはサポートが厚いらしい。ネットの掲示板で見たのだけど、中古だろうとなんだろうとバッテリー交換を非常にリーズナブルな価格でやってくれるらしい。交換用バッテリーを送ってくれるので説明書き見ながら自分でやるんだっけ?ともかくこの手の製品にありがちな高い修理費を吹っかけてくることはないとのこと。自分がアメリカのアマゾンから買おうと決断したのもこのことが大きかった。

多少耳に刺さってもいいからとにかく解像度の高い音が聴きたいという人はAKMやESSなんかの最新DACチップを使った高級機のほうがいいと思うけれど、高級イヤホンの素の音をじっくりと楽しみたいという人はこいつを選んでもいいと思う。

(最終更新日: 2019年3月24日 by ひっちぃ)

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