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ホーンテッド・キャンパス 第1巻まで

櫛木理宇 (KADOKAWA 角川ホラー文庫)

まあまあ(10点)
2016年11月17日
ひっちぃ

高校の頃、中庭にいた見知らぬ美少女・灘このみに近付こうとした謎の影を追い払ったことから、彼女のことが少し気がかりになっていた霊感持ちの少年・八神森司だったが、受験浪人を経て偶然同じ大学に進学して彼女と再会する。彼女は別の霊感持ちの人に勧められてオカルト研究部に所属していた。再び彼女の身に危険が迫るのではないかと思い、八神森司もまたオカルト研究部に籍を置くことにする。オカルト研究部のもとにはちょっとした事件が時々持ち込まれる。連作短編ホラー小説。

電車で真面目そうな高校生女子が本を読んでいたので、一体何を読んでいるのだろうと思っていたら、チラリと表紙が見えたのですかさず記憶してネットで調べてこの本にたどり着いたので読んでみた。キモいおっさんですまん。

一つ一つのエピソードが高校生にはちょっと下世話すぎる。義父に性的虐待を受けた娘とか、オナニーしまくる男とか出てくる。ああいう子には読んで欲しくないなあ。

という手前勝手な感想は置いておいて、下世話なのはエンタテイメントにとっては誉め言葉だと思うし、一つ一つの話は先の展開が気になって割とさくさく読めた。ホラー小説なんて十年以上前に友人に借りたスティーヴン・キングの何かを読んで以来で、自分はいままでほとんど手を出してこなかったけれど、霊的な現象っていうのは物語的に結構力強くて割と楽しめた。霊が暴れるのはアクション性があるし、過去の恨みなんかの人間模様がちょっとドラマチックで悪くなかった。あ、西尾維新の「物語」シリーズも伝奇ものなんだろうけどホラー小説に分類できるのかな。

依頼を受けたオカルト研の面々、特に黒沼部長なんかが、自分の文学的な知識を披露して謎を解こうと問答をするところなんかちょっと楽しくて知的好奇心をくすぐられる。さすがにマイナーな本の一節を諳んじて見せたところにはありえんと思ったけれど、霊感のまったくない黒沼部長が知識で補おうとしている静かな熱意があらわれていてよかった。ほかに霊感持ちだけど口の悪い長身男とか、姉御肌の女の先輩なんかが出てきて、中高生が想像する大学の文化系部活動の理想像だよなあ。

ヒロインの灘こよみは、美少女だけどよく眉間に皺を寄せていて人を遠ざけていた。そんな彼女に主人公の八神森司が惚れ、彼女がたまに見せる笑顔にドキドキしたり、なんとかして自分の好意を彼女にぶつけようとしたりするという、恋愛要素も持っている。それを女の先輩に茶化されたり生暖かく見守られたりする。

でもこの作品は自分にとってはそこまで面白いとは思えなかったので一巻で読むのをやめることにした。

一巻全部読んでもこれといった展開がないので、たぶん今後も短編で霊感話が続いていくだけなんだろうなあというのが一番大きかった。一応最後に主人公がちょっとがんばってみせるのだけど、どうやら彼女の気持ちには届いていないみたいだし、でもなんだかまんざらじゃないところを見せたりもする。そもそもこのヒロインってそんなに魅力があるように見えないのだけど、どのへんがいいんだろう。

霊感のまったくない黒沼部長と、霊感のある口の悪い長身男とは、いとこ同士で同じ黒沼姓なのだけど、作中やたらと「黒沼」という人物がしゃべる記述があってどっちがしゃべっているのか分からなかった。大抵は「黒沼部長」と「泉水」で使い分けられているからいいのだけど、さらにこの「泉水」という名前が長身男に似合わなくて最初軽く混乱した。

黒沼部長は宗家の跡取りみたいで、分家筋の黒沼泉水は部長のことを「本家」と呼んで立てているのだけど、ちょっと興味深いこの二人の人間模様について一巻ではまったく触れられないのだった。依頼人やその周辺は深掘りするのに、肝心のオカルト研究部の面々について表層しか触れられていないのはなぜなんだろう。せっかくシリーズものになっているのに。

結局主人公はどうしたいんだろう。冒頭のモノローグで霊感なんて持っていたっていいことなんてまったくないなんていう愚痴を語るのだけど、それなのにわざわざオカルト研に入ったのはよっぽど灘このみのことが好きなんだろうか。使命感を隠れ蓑になんかしちゃって、かわいいよねえ、みたいに読んで楽しむのが正しいんだろうか。

この作品は、第19回日本ホラー小説大賞の読者賞受賞作らしく、この作者のデビュー作とのこと。でも読んだ印象としては、ベテラン作家の量産作のような、良く言えば安定した、悪く言えば何のほとばしりもない凡作に思った。

にしてもホラーものって男より女にウケているのはどうしてなんだろう。特にホラー漫画の分野は完全に女性向けで、男性が手に取るようなものではないと思う。女性誌の傾向なんかを見ても分かるように、女の方が下世話な不幸話が大好きってことなんだろうか。

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