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僕は友達が少ない 8巻まで

平坂読 (メディアファクトリー MF文庫J)

傑作(30点)
2012年7月29日
ひっちぃ

先天的にヤンキー風の外見とドモり症の高校生男子・羽瀬川小鷹は、友達が欲しくてしょうがなかったのに、これまで微妙な関係しか作ることが出来なかった。あるとき、そんな不遇な自分よりもさらに哀れな少女・三日月夜空と出会う。ぼっち(一人ぼっち)のくせにやたら強気で強引な彼女に引っ張られるままに、彼女の作る「隣人部」に入らされ、友達をたくさん作って充実した生活を送るにはどうしたらよいのか日々試行錯誤するようになる。ライトノベル。

興味を引くタイトルだったので読んでみたら面白かった。ネットでは悪評の方が目立ち、友達が少ないとか言っておきながら女の子には囲まれててクソうぜー、みたいに言われていた。すごくアニメ映えしそうだなというかアニメ向けに書かれた作品だなと思っていたらすぐにアニメ化され、出てくる女の子は大体狙い通りにかわいかったのだけど、売り上げに比べてひねくれたファン心理なのか熱心に作品を語っている人はいないみたいだった。

この作品の一番面白いところは、友達と一緒に遊ぶというごく普通のことが出来ないあぶれ者たちが、そういう生活を一歩引いた目線で捉えて、おそるおそる練習していくという馬鹿馬鹿しさにある。しかも主人公たちは一見そんな風に見えず、主人公の小鷹はあえて人をよせつけないヤンキーに、三日月夜空は物静かな長髪の美少女に、というギャップがある。

この作品はいわゆるハーレムもの、つまり出てくる女の子たちが全員主人公を好きという状態なのだけど、メインヒロインみたいな立ち位置のキャラが二人いる。一人は前述の三日月夜空で、もう一人は学園理事長の娘にして運動神経抜群で成績優秀でおまけにハーフで金髪碧眼の美少女で男子にモテまくりのチートキャラ柏崎星奈。こんなキャラがいたら作品が成り立たないんじゃないかと思うところで、現に三日月夜空は星奈が「隣人部」への入部を希望してきたときは問答無用で拒絶しているのだけど、星奈には同性の友達がいないのと致命的に空気が読めないという欠点があった。男どもを自分の下僕としか思っていないという性格のねじくれようなのだけど、その反面強力な能力で自分をまったく偽らずに生きてきたせいか非常に素直でまぶしい側面も持っている。遠慮なく接してくる三日月夜空のことを星奈は初めて出来た同性の友達と思っており、いつもいやみを言われたり意地悪をされたりするのだけどその思いは変わらない。一方の夜空のほうは半分本気で星奈のことが嫌いで、星奈の大きな胸から取った「肉」というあだ名で呼んでいる。

天才科学少女・志熊理科は、保健室登校ならぬ理科室登校を続ける特待生で、いつも白衣を着ていて独特の変態妄想をまじえて小鷹を誘惑する。友達がいないくせに小鷹にはやたらと積極的で、自分の体と言葉でアピールしまくって小鷹をたじろがせる。BL(ボーイズラブ)ものとかが好きなのだけど、一番好きなのは戦闘ロボット同士が絡み合う同人誌で、誰も理解できない。

天才シスター・マリアは、飛び級で卒業して学園にきた先生なのだけど、外見と性格はまるっきりの幼女。性格もバカなので、「隣人部」の顧問になってもらうよう三日月夜空に言いくるめられて以来、半ば夜空の下僕のようになっている。

小鷹の男らしさにあこがれる少年・楠幸村は、女の子にしか見えないかわいい姿形をしているのだけど、男言葉を使って小鷹の舎弟として付き従うようになる。しかし小鷹からは男として扱われず、夜空や星奈のことを女扱いしない小鷹が幸村のことを唯一まるで女の子のように扱うという謎ポジションに。

そして小鷹と違って金髪碧眼だった母親の血を色濃く受け継いだ小鷹の妹・小鳩は、かなりの美少女で学校でも人気者らしいのだけど、人見知りで友達がおらず兄にべったりしている。そのくせシックな魔法少女もののアニメに強く影響され、普段からゴスロリ衣装とカラーコンタクトをはめて登場人物になりきった言動をする痛い少女になっているが、設定が破綻して感情があらわになると生来の九州弁で泣きつく。

こうやって改めて説明してみて分かるように、かなり狙いすぎなキャラばかりでちょっとうんざりするのだけど、幸村以外はどのキャラもなんというか人間味があって面白い。天才シスター・マリアは小鷹のことを兄のように慕っていて自分は妹であるかのように振舞っているのだけど、それを見た実の妹である小鳩はマリアをやたらと敵視し、マリアのほうも小鳩をその言動から吸血鬼だと思って本気で喧嘩をするようになる。

ダブルヒロインつまり夜空と星奈の綱引き?がストーリーの軸となっている。夜空は実は小鷹と幼い頃に出会っていて、そのとき一度友達になったのだけど、後味の悪い別れ方をしており、しかもあれからずいぶんと時間が経っていて互いに気づいておらず関係がリセットされている。星奈のほうは互いに父親同士が親友で、特に星奈の父親は小鷹のことを自分の娘の将来の婿だと思い込んでいる。星奈は父親に挨拶に来いと小鷹を自分の家に誘い、一晩泊まらせるなど関係を進めていく。

主人公・小鷹の一人称で話が進んでいくのだけど、それだけでは限界があるのか、この欺瞞に満ちた物語をえぐるために、7巻で志熊理科が狂言回し的なことをし始める。もう半年以上前に7巻まで読んだのだけど、こんな引きをされるのでわざわざ8巻まで待ってみたのはそのせいだったが、特に物語は大転回することもなく割と無難に進むのだった。

私はあんまり強力すぎるキャラが好きじゃないのだけど、柏崎星奈には大きな魅力を感じた。男子にモテまくるせいで同性の友達が出来ない、という設定には正直ちょっと無理があると思う。というのは、必ず取り巻きみたいな女が集まってきて、少なくともうわべだけの友達はできるんじゃないかと思うからだけど、そんな友達すら出来ないほど存在を無視したくなる圧倒的なスペックがあるからだろうか。そんな彼女の「同性の友達が出来ない」という悩みは切実であり、その余りギャルゲーにまで手を出してゲームの中の女の子を愛するようになるという残念さがたまらない。大金持ちのお嬢さんであり、世間ズレしていなくて、簡単に騙されたり、初めて買ってもらった携帯電話にはしゃいだりする。ほとんど挫折したことのない性格から、自分の望みは大体叶うと思っているところがあり、それは夜空の度重なるひどいイタズラにもめげておらず、ついにはなにげなくゲームをしながら小鷹に対して好きだと告白するという信じがたい無邪気さを持つ。そんなまぶしい彼女に魅力を感じるのに加えて、いつか自分の思い通りにならないことと折り合いをつけるために大人になるところを想像して萌えてしまう。

三日月夜空は最近流行りの性格の悪い女だ。エアギターならぬエア友達つまり実在しない友達をさも存在するかのように一人で会話を楽しむという信じられない痛さとともに登場する。彼女の性格の悪さは常に物語を引っ張っていく。部員に対するイタズラと、世の中を一番ナナメに見ているひねくれた性格は、この作品のギャグパートの多くを支えている。その一方で小鷹への恋心というシリアスパートまで担当しているのだから、本来であればメインヒロインの座にあるはずなのだけど、その点どうにも弱い気がする。単に私が星奈びいきだからというのもあるのかもしれないのだけど、過去の絆にとらわれていて今それほど行動を起こしていないからじゃないだろうか。

8巻で一度大きなクライマックスを迎えるかと思いきや、理科の執拗な追求にも関わらず主人公の小鷹は煮え切らない態度をとり、新たに生徒会長・日高日向というヒロインを舞台の中ほどに寄せてきた。一体このあとどういう話になるのだろうか。「隣人部」対「生徒会」の緒戦が描かれたけれど、なんだかあまり戦いにはならなさそうだしなあ。日高日向を「隣人部」の面々にぶつける展開になることは確かなんだろうけど。

この作品の大きな問題として、主人公の小鷹がハーレムの中にありながら誰のことも好きになっていないことが挙げられると思う。普通なら夜空や星奈の一挙一動にドキッとしたりするものだけど、そういうのが一切ない。一人称だからかと思ったけれど、幸村には女を感じて緊張してるしなあ。理科には愛情よりも友情を感じているし。

主要登場人物の中では幸村がいまいち魅力に欠ける。男の娘キャラ(?)というだけで本来なら十分なはずなのに、どうにも異様すぎて不気味な感じ。井上堅二「バカとテストと召喚獣」の秀吉とは逆に、天然なのであまりギャグになってないからだろうか。アニメを見て多少納得した面もあったので、活字だとあまり描ききれていなかったもしくは読み取りきれていなかったからなんじゃないかとも思った。マリアに嫌いなものを無理やり食べさせるという暴力的な側面が伝聞で語られるところは面白かったけれど、ちょっと想像つきにくい。あ、でも8巻では意外に芯のあるところを見せていて、実は精神的に結構タフだということが描かれていて悪くないなと思った。

マリアの姉のケイトも微妙だったなあ。いろいろすべてが。

そういえば他に男キャラが出てこないな。星奈の父親の柏崎天馬というおっさんは出てくるけど。この手の作品にありがちな、主人公とつるんでる軽薄な非モテキャラみたいなのが出てこないのは設定上当然か。

友達ってなんだろう、っていうところにあまり踏み込んでいかないのも物足りない。小鷹が自虐的な回想をするシーンの中にはそういうシーンが出てくるのだけど、あくまで回想であって現在の時間軸にはそういう場面が出てこない。「隣人部」の誰かにいわゆる偽の友達が出来て泥沼にハマってそれをみんなで助ける展開とかあってもいいんじゃないかと思った。

同じ作者の「ラノベ部」もちょっと読んでみたのだけど、こっちのほうが丁寧に書かれていてじんわり来た。設定の思い切りとかギャグの破壊力なら完全に「僕は友達が少ない」の方が強力なのだけど、ピーキー過ぎて心に残る度合いが減ってるような。どっちも面白い作品なのだけど。なんだかんだで新刊が楽しみ。

ありえない話が嫌いな人でない限り、読んでみるといいと思う。

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