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バクマン。 16巻まで

原作:大場つぐみ 作画:小畑健

傑作(30点)
2012年4月8日
ひっちぃ

中学生男子・真城最高は、ひそかに同級生の女の子・亜豆美保のことが好きで、つい授業中に彼女の似顔絵をノートに描き、そのノートを教室に置きっぱなしにしてしまう。そのノートを見た秀才・高木秀人は感銘をうけ、一緒に漫画家になろうと言い、ついでに亜豆美保に告白しにいこうと言い出す。二人は週刊少年ジャンプをモデルにしたマンガ雑誌にマンガを連載してアニメ化することを目指す。

Eテレ(旧NHK教育テレビ)でアニメ化されたのを見てとても面白かったので、アニメが終わってから原作に手を出そうと思ったけれど、アニメがどんどん続いていくので我慢できなくなって読んでみた。

たぶん実質的な主人公である真城最高は、ギャグ漫画家だった川口たろうという叔父を持っていたが、過酷な世界でいっときヒットしたものの戦力外通告を受けて失意のうちに死んでいた。なので簡単な気持ちでマンガ家になろうと言っているような高木秀人に最初は反発するものの、説得されて一緒にやることになる。高木秀人が話を考え、真城最高が絵を描く。中学三年生で卒業を間近に控えたときに作品を仕上げ、出版社に持ち込む。そこから読み切り(一回完結の作品)掲載、そして連載を目指してがんばっていく。

作中ではWJ(ウィークリージャンプ)という名前になっているけれど、集英社の週刊少年ジャンプをモロにモデルにしている。マンガ家がデビューするまでの流れがそのまんま描かれていてとても興味深かった。見込みがあるとなると編集者がひとり担当につき、一緒に作品について考えていくところとか、アンケート結果に一喜一憂してそれからの話をどうしていくのか決めていくところが面白い。

主人公二人組に対して新妻エイジというライバルが登場する。雪国でほかに娯楽がない中でマンガ漬けで育った天才児で、高校在学中にデビューして新鋭マンガ家として早くも作品をヒットさせる。新妻エイジは読み切り掲載された二人の作品を読んで彼なりの感銘を受けていたところ、ちょうど偶然編集部にきていた二人と知り合うことになる。以後互いにライバルと認め合い、切磋琢磨していく。

新妻エイジのほかにも、アシスタントつながりで色々なマンガ家と出会って輪が広がっていく。ヤンキー風の熱血男・福田真太、ベテランアシスタントの中井巧朗というおっさん、脱サラして未経験でいきなりマンガを描き始めてヒットさせた平丸一也なんかがいる。みんな個性的。

なかでもお嬢様風の才女・蒼樹紅はとても魅力的だった。最初はプライドの高い女として登場するが、次第に角がとれてきて高木秀人を頼って恋心を抱いたり、最初は嫌っていた福田真太に師事するなど、振り幅があってぐっとくる。最近いかにもアニメ風のステレオタイプな女キャラばかり出てくる作品を読みすぎて食傷気味だったので余計に惚れる。

主人公たちと中学の頃同級生で学年二位の成績だった岩瀬愛子は、学年一位だった高木秀人のことが好きで彼女なりの愛情を抱いていたが、マンガ家を目指すと言ったのを期に一方的に去るものの、物語の途中で再登場する。私はこのキャラがこの作品の中で一番好き。とにかく痛カワイイ。でもなあ、きっと読者の人気がいまいちだったのか、あんまりスポットライトが当たらないんだよなあ。もっと描いてくれたらいいのに。あ、落ち目になってすごく落ち込むところをみんなから励まされるなんていうストーリーもあるのでちゃんとフィーチャーしてるんだろうけど、なんかいまいちだったなあ話が。たぶん作者的にこのキャラを動かすのが難しすぎたんじゃないかと思う。高木秀人がらみの女関係を早く収集しすぎたのがまずかったのでは?

そうそう。この作品のもう一つの柱であり最終目的にも結びついているのが、真城最高と亜豆美保との恋愛。相思相愛で、マンガが成功してアニメ化されたら結婚しようと約束するも、それまでは一切会わないという決まりを作る。うーん。思い切った設定にしたなあ。純愛ブームに乗ってみたんだろうか。なんかやっぱりありえない感じがして正直気になってしょうがなかった。まあなんだかんだでこの決まりは緩くなっていくんだけど、やっぱりいまでも感情移入できない。露骨なハーレムもので主人公モテまくりの作品よりもこの作品の方がよっぽど不自然な感じがする。叔父の川口たろうの恋愛エピソードの相似形になっていたりと、色々考えているんだろうけどなあ。ヒロインの苗字が「亜豆(あずき)」といかにも名前っぽく命名してあるのもまぎらわしくてややこしくしている。キャラの命名が重要であるということを作中の創作の話でしているぐらいだからこだわってつけた名前なんだろうけど、いったいどういう狙いでつけたんだろうか。真城最高が奥手で女の子の下の名前を呼ぶことがなかなかできないけど露骨に苗字を連呼するとしらけるだろうから名前っぽい苗字にしたんだろうか。うーん。

二人のやりとりは主に携帯メールで行われる。亜豆がメールの文面で「(笑)」をよく使うのが妙にリアルで面白い。本人には全然その気がないのにちょっと相手を小馬鹿にした感じがして、でも天然でやっているんだろうなあというところが。

担当編集者との突っ込んだやりとりが白熱していて面白い。なかでも、自分の新たに担当についた編集者のことをひょっとしたらダメな人なんじゃないかと思ったり、方針をめぐって対立して喧嘩にまで発展したりするところがすごくよかった。一方で、丸く収まるところでちょっと話ができすぎているような感じが少しした。主人公二人組は結構熱くなったり子供っぽいところを見せるのだけど、それでもまだちょっと大人すぎるように思う。互いに互いのことを頭いいと言い合うところなんかはいかにも等身大っぽくて良かったんだけど、そのシーンもちょっと微妙な空気だったなあ。亜豆に対する人物評価は二人の世界観というより作者の考えが出たように思えて気になったけど個人的にすごく面白かった。まあたぶん違う方に私は掛けるけど。

とにかくストーリーが面白くて読んでいてずっと引き込まれる。いまいちだなと思ったのは七峰透がらみのエピソードぐらいだろうか。せっかくネット世代の新しいタイプの若者が出てきて話の筋書きも面白かったのに、描き方が乱暴でなにかフィルターが掛かっているみたいだった。作者は作品を盛り上げるためにこういうキャラを出したんだろうけど、きっと作者は本当にこのキャラが嫌いなんだろうなあ。愛情を注がれていない悪役キャラってこんな風になるのかと思った。

この作品に登場するマンガ家にはそれぞれ自分たちの戦いがあり、連載を勝ち取るだとか、読者アンケートの順位とか、打ち切られるかどうかといったドラマがある。個人的にはもっとそれぞれの作家のついて描いて欲しかった。

作中に出てくる作品自体をもっと読みたかった。最初のほうだけ部分的にそのまま載せていたりもするのだけど、なんか物足りないし説得力に欠ける。うーん、これは贅沢な願いなのかな。描くのも大変だろうしなあ。藤子不二雄「まんが道」だと作品がそのまま載っていたけれど、逆にそれが活かされているようには思えなかったから微妙なのかな。畑健二郎「ハヤテのごとく!」に登場人物が同人誌として初めて描いたマンガがそのまま出てくるのだけど、プロの作家っていかにも素人っぽい作品を描くのがとてもリアルでうまくて(?)ある種感動する。七峰透のワンアイデアものの作品なんかはしっかり描かれていてとても説得力があった。これだけじゃなくもっと作中作品でストーリーの裏づけが出来ていたらこの作品は神がかっていたと思う。「タント」をそのまま載せるとか。さすがに週刊連載じゃキツいか。作中の登場人物である平丸一也の「ラッコ11号」はなにかのおまけで描いたらしいけど。

色々ケチもつけてきたけど、すごく面白くて引き込まれる作品には違いなく、まだまだこの先が楽しみだ。アニメの話になるけれど、2011年に放映された中で一番の傑作は「魔法少女まどかマギカ」でも「シュタインズゲート」でもなくこの作品だったと思う。物語も中盤といった感じで、この先も色んな展開が待っているような気がして期待してしまう。

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