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鋼の錬金術師 16巻まで

荒川弘

傑作(30点)
2007年4月28日
ひっちぃ

死んだ母親を錬金術で生き返らせようとして失敗した兄弟は、兄が片腕を、弟は全身を失ってかろうじて甲冑に魂をつなぎとめた。兄弟は自分たちの失った体を取り戻すため、錬金術の世界でもっとも優れた触媒であるとされる賢者の石を求めて、国に仕える国家錬金術師となって軍務につきつつ冒険するうちに、賢者の石をめぐる深い陰謀に巻き込まれていく。

月刊少年ガンガンに連載されているマンガ。アニメにもなり、若い世代を中心に人気がある。

本作にはいくつもの分かりやすい魅力がある。

まず母親への想い。死んだ母親をよみがえらせるために錬金術の禁忌を冒す導入部から引き込まれる。成功したかに見えた蘇生が大失敗し、うごめく魑魅魍魎から母親の悲痛の声が聞こえるところから衝撃的だった。

そして賢者の石を求めるために国家にひざまずき国家のいいなりとなって戦争で人殺しをしてきた過去もかっこいい。まだ年若い少年なのに強い力を持ち、周りから尊敬され、軍隊である程度の位置にいる。こういうヒーローってとても魅力的だ。チビという弱点を持っていて人間味がある。

本作の魅力は大きくこの二つであり、戦争の悲惨さや陰謀めいたものの中で誇り高く立つ主人公のかっこよさと、錬金術をめぐる悲哀(母親とか少女とか)が本作を大ヒット作品にしたのだと思う。

ほかに錬金術という一種の超能力がとても魅力的だった。なんでもアリなのではなく、等価交換の法則とか、練成陣を描かなければいけないとか、制限があるところが戦闘や物語に張りを与えていると思う。ビジュアル的にもかっこよく、この作品を独特のものにしている最も大きな要素である。

登場人物が豊かなのも良かった。第二の主人公格のロイ・マスタング大佐とその部下たちも一人一人描写されており、特にロイに対してはヒロイン格のリザ・ホークアイまで用意されている。あんまり進展しないけど。

ここからちょっと批判をする。

父親との確執というテーマもあるけれど、どうも形だけ用意されているに過ぎず、いまのところ深い話にはなっていないように思う。

戦争の陰謀がちょっと稚拙に思える。少数民族を虐げる国家という構図を少年マンガに持ち込んだことはとても良かったのだけど、紋切り型で視点が一方的すぎると思った。

ホムンクルス(人造人間)が出てくるあたりからストーリーがつまらなくなっていく。戦闘シーンばかり増えてきて展開が遅くなる。自分は11巻で一度読むのをやめた。あのキャラが実はホムンクルスでしたという時点であきれてしまった。今後納得のいく展開にしてもらえるのだろうか。

主人公エドのヒロインであるウィンリィ・ロックベルと大したロマンスがないのも残念。まだ子供なのでしょうがないか。

アニメ版は原作と結構違うらしい。自分はアニメ版も見たことがあるのだけど、終盤から見たのでいきなり盛り上がっている場面を見てしらけた。最初から見てみようとしたのだけどもう一度最初からストーリーをなぞる気になれなかった。本作の世界観は壮大でキッチリしていて自分の好みなのだけど、どうしても子供だましな感じがしてしまう。異民族同士の対立なんていうテーマは日本人には描けないものなんじゃないかと思ってしまう。島国日本の韓国人や中国人との対立なんてかわいいものだ。

こういっちゃなんだけどこの作品はこれ以上良くはならないと思う。作品の壮大さに対する作者の底の浅さが見えてしまい、自分にとってはもう期待できるものはなさそう。いや、最後の希望がまだあった。あのキャラが実はホムンクルスでしたのあとの収拾をひょっとしたら素晴らしい展開で見せてくれるかもしれない。

(最終更新日: 2015年4月19日 by ひっちぃ)

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