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中国の大盗賊・完全版

高島 俊男 (講談社現代新書)

最高(50点)
2005年4月2日
ひっちぃ

中国の大盗賊について語った本だと言うのは正しいのだが、もっと突っ込んで言うと、盗賊から身を起こして皇帝にまで登りつめた中国の英雄たちのことを書いた本だ。そしてその中に毛沢東まで含まれるという。

作者は地方大学の元中国語教師である高島俊男。最近では「痴呆」という言葉の言い換えのための政府の委員をつとめたほどの、漢語についての専門家。

すばらしい。中国の歴史に対する見方がガラリと変わる。三国志みたいなものだけが中国の歴史なのではない。

まず盗賊とは何なのかということが説明される。この基本を押さえることが重要だ。ならずものだけでなく、食うのに困った農民も、みんな盗賊になる。人数が集まると手がつけられなくなる。小さい町どころか大きな都市まで手に入れてしまう。そうなると軍隊が出動して討伐に掛かる。ところが、政府の力が弱いと軍隊を打ち破り、いつのまにか天下を狙うようになり、民衆を味方につけたり知識人に教えをこうたりして、王朝を滅ぼしてしまう。平気で人を殺し犯す極悪非道な集団から、天下を取って理を得るまでが、シームレスにつながっているのが中国の歴史なのだという。

そうやって国を作った人々として挙げられているのが、陳勝、劉邦、朱元璋、李自成、洪秀全、毛沢東だ。教科書で名前だけ出てきたような、たとえば太平天国の実態には、唖然とした。日本の教育が左翼の影響を受けていることがはっきりとわかる。

中国の歴史のあらすじを楽しく読めるというのも大きい。三国志を読みました、史記もかじりました、というぐらいの人にちょうどいい。

自由が好きなはずの中国人がなぜ共産主義というものを奉ってしまったかについての考察が最後にされている。四書五経をあがめる中国人が、そのままマルクスの書を経典としたからだろうと言っている。

それに私の意見を付け加えると、マルクス主義に拒否反応を持つ人の大きな理由は実は無神論だったりするのだが、中国こそが実は世界一の無神論大国なのだからこそ受け入れられやすかったのではないかと思う。

新書にしては300ページを超えるボリュームを持つ本書だが、ぜひ私は勧めたい。

ところでなぜこの本が「完全版」とついているのかというと、最初に出したときは16年前でまだ共産主義の幻想が崩れていなかったときで、そのまま出すのは危ないと編集者が削れと指示したからだということらしい。それ以前にもともと著者が指定枚数を大幅に超えて書いてしまったからだというのもあるのだが、こうして時代が変わって出版されたことを喜びたい。

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