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日本を滅ぼした国防方針
日露戦争後の日本の国家戦略が、軍部や政治の内部での対立から、どのように支離滅裂になっていったのかを簡単にまとめた本。著者は防衛庁防衛研究所戦史部主任研究員の黒野耐。

とても大局的に書かれた本で、日露戦争から大東亜戦争までの日本の置かれた国際情勢の勉強にも役立った。軍事面に焦点があたっており、たとえば極東でのソビエトの圧力が、日本とソビエトとの具体的な師団数や戦闘効率の比較までしてあって、非常に分かりやすい。これまであいまいにしか理解できていなかった軍事的圧力や外交圧力が、数字とかではっきり出ており、それがこの本を読んでの一番の収穫だった。

焦点はいくつかある。ワシントン軍縮会議、石原莞爾の大戦略、この二つが特に大きい。対立軸もいくつかあって、政治と軍部、陸軍と海軍、条約派と艦隊派、皇道派と統制派、石原一味と保守派。対立の要素も、日本の国力の範囲内でどの国と結ぶかだとか、短期決戦か長期戦か、北へ進出するか南に進出するか、と興味深い。

この本が多くの著述を裂いているのは、どの派閥のどういう人がこんな戦略を立てていた、というのを公文書や日記からの引用で示している点だ。そのため、私のようなにわかな興味で読んでいる人間からすれば、多くの戦略には結局矛盾があった、というパターンもあってか多少うっとうしさも感じた。読む人が読めば、細かい違いに興味をひかれたのかもしれないが、新書なのでざっくりでも良かったと思う。

艦隊派は実質的には東郷派だった、というドキリとさせる記述もあったのだが、結局ここには深く踏み込んでいなかった。日露戦争の英雄・東郷平八郎が、実はワシントン軍縮会議の頃にも海軍でかなりの力を持っており、軍縮に大反対していたというある種のタブーなのだが、具体的な戦略案とは関係がなかったので取り上げなかったのだろうか。軍縮にせよ軍拡にせよ、理屈づけとして国防方針の文書が提出され、そんな文書をこの本は紹介しているのだから、仕方がないのかもしれない。

軍人いやそうは限らなくても、保守的な勢力を打ち破って新たな戦略や改革を行うのは難しい。たとえば、陸軍の近代化を行うにせよ、兵員数を減らしてその分新しい兵器を導入するのでさえ、保守層からの反対を受けてしまうのだ。国防方針ともなると、政治陸軍海軍すべてが関わり、なかなか変えうるものではない。ましてや国際情勢は刻一刻と変わっていくのだ。小さくても成功していることを中断するのは容易ではない。

日本には優れた戦略家がいたことは確かだ。優れた戦略をいくつかでも採用していれば、現実のあの敗戦は回避できただろう。しかし、日本の意志決定システムが導き出した答えは違った。残念だ。いま、この構造的欠陥は少しでもマシになっているのだろうか。

さいごに、やはりこの本は戦略方針に焦点があたっており、そのときどきの情勢の説明は最小限にとどまっている。楽しむためには、当時の情勢についての最低限の知識と、大局的な戦略とそれをめぐる派閥争いへの興味が必要となるだろう。
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