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オレが私になるまで 5巻まで
小学二年生のやんちゃな男の子だった藤宮明は、突如謎の奇病「突発性性転換症候群」に掛かり女の子になった。逃げるように祖母の家から通える学校に転校した明は、とりあえず女の子として生活することにするが、かつて自分が粗暴に扱った女の子の恨み言が脳裏に浮かんで離れなくなるのだった。マンガ。

自分はこういういわゆるTSもの(トランスセクシャル)が割と好きで、古くは週刊少年ジャンプに連載されていた江口寿史「ストップ!! ひばりくん!」や、最近プレイしたアトラスとヴァニラウェアのゲーム「十三機兵防衛圏」に出てくる沖野司の女装、ボーイッシュな女の子全般なんかは見ていて楽しい。ってこれらは厳密な意味でのTSものではないのだけど。

この作品の主人公は、男の子の自意識を持った状態で生物学的に女になるという設定で、もちろんこんな病気は実際にはなくて空想の産物ではあるのだけど、そんな彼が題のとおり女の子として生きようとする物語となっている。

いまこれ書いてて初めて気づいたんだけど、これって性的マイノリティーの問題からすると真逆の話になっている。なにせ明はトランスジェンダー女性としてではなく性一致の女性になっていくわけだから。でもそれは押しつけがよくないということであって、性一致のほうに進むのもその人の選択だと思う。

性転換してしまった明は、自分が女になって初めてクラスの粗暴な男子のことが怖くなり、いままで自分が男の子として女の子たちにひどいことをしてきたことを猛反省するようになる。この明の後悔が読んでいて胸を締め付けるとともに、真剣に悩んでいる明に対して愛着がわいてくる。

この架空の病気は治らないので、もう明は生物学的には女として生きていかなければならないことは確定しているのだけど、明の動揺を見かねた母親は男の子としてこれまでどおりに生きていけるよう気を回す。

一方で明は学校では病気のことを隠し、女の子として登校する。そんな明にクラスの女の子の渡井瑠海が近づいてきて、女の子としての振る舞いを手ほどきしようとする。彼女は明が元は男の子だったことを知らないのだけど、素材はかわいいのにどこか垢ぬけない明を見て庇護欲が生まれるのだった。

女の子たちと仲良くなるにつれ、明はもう自分が女の子として生きていくことにそこまで抵抗を感じなくなっていく。そうなるといろいろと気を回してくる母親の気づかいがむしろわずらわしくなるのだった。

一方で、やはり自分が男の子だった頃に親しんでいたカードゲームなんかに対する愛着はそのまま残っているので、男っぽい性格をしている女の子の藤木葵と距離を縮めたり、男の子とも仲良くなったりするが、そのことが独占欲の強い渡井瑠海や男の子と仲良くなりたい他の女子との亀裂を生んでいく。

こういう女の子同士のもめごとや友情の話がぐっとくる。男同士の場合、なんでもかんでもはっきりさせようとするというか、激しいやりとりがあってそこから決別したり仲良くなったりして新たな関係になるものなのだけど、女同士の場合はどこかで手打ちをしようとして問題が曖昧なままこれまでの関係を継続させようとするんだなあと思った。

結局のところこの作品は、TSものではあるのだけど、ちょっと訳ありな女の子が女の子同士の友情を手探りで育んでいく物語なんだと思う。はっきりいってこの作品はTSものである必然性はないと思う。でも明がもとは男の子だったことが、彼…いや彼女に対する思い入れを抱きやすいことや、キャラとしての深みを感じることにつながっている。

たとえば仮にここに男の子だった頃の明のことが好きだった女の子が登場したら物語は本格的にTSものになっていたと思う。でも自分はこの物語がそうではなくてよかったと思う。ちゃんと練られて作られたものでないと安易に感じてしまいそう。ただ、そういう物語も読んでみたい気もする。好きな女の子が性転換して男の子になって自分に近づいてきて…うーん、これってBLの変形だし需要はなさそうだな。

小学生の頃に乱暴だった男の子のことを高校生になっても嫌悪している女の子がいて、心を入れ替えてスポーツがんばってるのにあいかわらず嫌い続けるのを見て、よっぽど恨みが深いんだなと思った。

というわけで、純粋なTSものを期待すると肩透かしを食らうかもしれないけれど、性転換をスパイスとした人間ドラマが楽しめそうであればぜひ読んでみてほしい作品。
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