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ペリリュー 楽園のゲルニカ
絵を描くのが好きな気のいい青年が21歳で徴兵され南国パラオのペリリュー島に配属された。第二次世界大戦末期にフィリピン奪還を狙うアメリカの大軍が迫ってきていた。旧日本軍がほぼ全滅するまで戦った島での出来事を描いたマンガ。

2025年にアニメ映画化され、その前のマンガ連載当時から話題になっていたので自分も途中まで読んでいた。アニメ化に合わせて描かれていた外伝も含めてすべて完結したというので改めて最初から読んでみた。初読時ほどじゃなかったけどおもしろかった。

三頭身ぐらいのかわいいほのぼのとした四コママンガ風の絵でガチの戦争ものが描かれるというギャップがすごかった。たぶんこの絵だから読者にとって身近に感じやすくなっていると思う。

主人公の田丸均はメガネを掛けていてしょぼくれた目をした青年で、厳しい軍隊の中で自分はやっていけるんだろうかと不安に思っていた。

まずは塹壕やほら穴を掘るところから始まる。アメリカ軍はまったく姿を見せず、本当にこんな小さな島に来るのかとみんな疑問に思っていた。しかし戦闘中でなくても軍隊は厳しく、田丸青年が弱音を吐いて上官からビンタされるシーンが描かれる。

これまでの日本軍は島を守るにあたり、敵の上陸に対して水際で迎撃する作戦を立てていた。上陸中が一番もろいはずだったから。しかしこの作戦は上陸前の敵の艦砲射撃によって大きな被害を受けてしまっていた。戦艦の大砲はそれほど圧倒的だった。

この頃から日本軍は作戦を変え、艦砲射撃を避けるためにほら穴を掘って立てこもるようになった。たぶんこれは大本営参謀の堀栄三が考えた作戦だと思う。この作戦をとったのはクリント・イーストウッドが実写映画にした硫黄島のほうが有名だけど、ペリリュー島はその前哨戦のようなものだった。

ペリリュー島はサンゴに覆われており、なんと当時のセメントより硬かったらしく、掘るのに苦労した様子が描かれている。なので掘ったほら穴は砲弾にも平気で耐えられた。そんなことを予想だにしていなかったアメリカ軍は、ほぼ無人のはげ山となった島を掃討するつもりで上陸してきて大損害を受けた。

しかし兵器の質にもまさるアメリカ軍はそのまま進撃を続け、守る側として最初は有利だった日本軍も徐々に押されていくことになる。田丸青年の部隊も血気にはやる上官から無謀な突撃を命令されるが、運よく(?)その上官が死に、バラバラになって逃げることになる。

たぶんここからが本編で、散り散りになった各部隊の生き残りたちが各所の洞窟に潜んで生存のためのサバイバルを始める。限られた水と食料、すさんだ精神、戦闘で受けた傷や病気により倒れていく人々の中で、一応軍隊としての規律を守りつつ集団生活していく。

気弱な田丸青年の傍らには同い年ながら優秀で落ち着いた吉敷青年がいてサポートしてくれていた。また、彼らの上には優れたリーダーシップを発揮しながら融通もきく島田少尉が部隊をまとめていた一方で、丸メガネを掛けた風見鶏の小杉伍長、軍の秩序を優先する片倉兵長、階級は上だけど陰で部下からナメられていた竹野内中尉なんかもいて、集団生活には常に軋轢があった。

これ以上はストーリーを解説しないほうがいいと思う。実際自分も何もしらなかった初読時には夢中になって読んだけど、既に話を知っていた再読時にはだいぶ忘れていたにも関わらずそれほど楽しめなかった。

この物語はフィクションだった。ちゃんと取材しているし、多くの参考文献を調べた上で描かれているのだけど、生存者が少ないので証言が少ないらしい。食人のエピソードはよそから持ってきたと作者が言っていて脱力した。実際過酷な戦地ではあったことらしいけど、証言のないエピソードをわざわざ差し込まなくていいじゃんと思いつつ、戦争ものばかり読む人なんてのは少ないだろうから戦争の真実を知るためにも創作としてここにあってもいいんじゃないかとも思った。

作者が実際に会った生還者は二人で、うち一人からは後押しを受けたけれど、もう一人からはマンガで軽く描くのはどうかと思うと言われたらしい。本作はなんと二重構造になっており、作者とは別にペリリュー島のことを描こうとするマンガ家が登場していて、彼が生還者から拒絶される場面も描いている。ややこしいけど誠実な姿勢だと思った。

この作品で描かれるエピソードの数々は実際にあった出来事や聞き取った証言に基づいたものなのでリアリティがある一方で、特に本編完結後に描かれた外伝での付け足しエピソードなんかで、話自体にはとても味わいがあったんだけど、登場人物の気持ちに踏み込んだ部分の描写に、なんだか作りました感がしてしまってあまり入っていけなかった。たぶん多くの読者にとっては気持ちの描写があったほうがわかりやすいんだろうけど、ノンフィクションも読む自分みたいな人間にとっては邪魔に感じた。

戦争を直接描いた実話ベースの作品というのは意外に少ないので、なにげにこの作品は長く残っていくかもしれない。より多くの人に読んでもらいたい。
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