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かくしごと
かつて「きんたましまし」という下品なマンガを連載していた後藤可久士は、十歳の娘にそれがバレると学校に広まって娘がいじめられるんじゃないかと思って秘密にしていた。サブカルあるあるをちりばめたギャグマンガを得意とする久米田康治による漫画家あるあるマンガ。

2020年にアニメ化されたのを見て面白かったのでこの原作にも手を出してみた。まあまあおもしろかった。

娘の姫ちゃんがかわいい。前髪パッツンな普通の女の子なんだけどそこがかわいい。素直で基本的には無邪気なんだけど、子供なりに色々と考えたり悩んだりもする。この娘に余計な心配や疑念を抱かせないよう、マンガ家の主人公後藤可久士はわざわざスーツを着て家を出てから職場に向かっている。アシスタントたちも自分の職を守るために協力する。担当編集も協力するのだけど天然が入っているのでいつも危ない方向へと転がる。

後藤可久士は雑誌に連載を持っているけれど特別人気があるわけでもないので、日々自分の作品が売れるよう色々と考えており、その中で最近の漫画家あるあるの数々が飛び出して読者を笑わせる。作中に描き切れない分については幕間のエッセイのような文章で補足されている。本音がズバリ描かれながらもイヤらしくならないよう自虐的に書かれていて、自分はあまりこういう文章は読まないほうなのだけど全部読んで楽しめた。

その中で作者の久米田康治が自身のあの伝説的な下ネタマンガ、通称「南国アイス」の影響をそこまで苦にしていたことがとても意外だった。自分もあの作品はひどかったと思うけれど(笑)、普通に笑って振り返られる過去だと思っていた。下ネタってちょろっと出してさっとしまうから面白いんだと思うんだけど、あの作品はとことん突きつめて笑いの先へ到達していたと思う(どこ行ったんだ)。単行本の装丁の色使いから異様だったし、自分の本棚には決して入れたくない本だったけれど、弟にはすごくハマったみたいで古本屋で買いそろえていた。

この作品に驚かされるのは、姫ちゃんが18歳になって過去を振り返る物語が平行して進められているところ。あれだけ楽しくドタバタが繰り広げられている単行本の巻末に、舞台裏でもがいていた主人公の当時の苦しみが娘の視点で徐々に明らかになっていく。なぜ鎌倉にまったく同じ間取りの平屋があるのか?なぜ父親はそこまで自分の仕事を隠しておきたかったのか?

作者の久米田康治の作品をいままで読んできて、安易にギャグ要員がひどい目にあってオチにしたり、どうしようもない展開になって投げやりに終わったりするのが自分としてはちょっと気になっていたのだけど、この作品ではだいぶ控えめになっていると思う。アシスタントに一人、空気読めないメガネくんがいるのだけど、仲間に止められてちょっと罵倒されるぐらいで済んでいる。作者も言っているのだけど時代の流れってやつなんだろうか。その代わり、姫ちゃんの担任の色黒独身の女の先生が主人公に求婚される勘違い妄想をする展開がたびたび出てきて、自分はとてもかわいくて好きなのだけどひょっとしたら一部の読者が心を痛めているかもしれない。まあ笑いってそういうものなんだと思う。女性も作中でひどいめにあったり主体的に扱われるようになってきていることについても触れてほしかった。作者からするとずいぶん前からやっていたことなので当たり前すぎたのか。

正直、ストーリーはそれほど面白いわけではないと思う。シリアスな展開も読み終わってみたらそれほど感動を得られたわけではなく、小出しの感傷がチクチク刺さったぐらいだった。この作品の魅力の多くは漫画家あるあるの部分だと思うので、そこを楽しめそうだったら読んでみるといいと思う。あ、姫ちゃんのあざとくないかわいさもよかった。
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