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化物語
高校二年の春休みに不思議な体験をした青年・阿良々木暦(こよみ)は、それ以来「怪異」と呼ばれる民間伝承的なもののけの存在をしばしば感じてしまうようになっていた。そんなある日の学校で、急に階段から足を滑らせて落下した女の子を偶然受け止め、彼女の体重が恐ろしく軽いことに気づいてしまう。拒絶する彼女を強引に説き伏せ、阿良々木暦は以前自分が「怪異」に取り付かれていたときに世話になったその道の専門家、アロハ服の中年忍野メメの助けを借りて彼女を助けようとする。たぶんライトノベルに分類される小説で、続刊される「物語シリーズ」の最初の作品。

2009年にシャフトによってアニメ化され、同時期にアニメ化されて半ば社会現象となった「けいおん!」のブルーレイディスクでのセールスを確か抜いたんだったと思う。私はテレビ放映されたアニメ作品のほうを見てからこの原作を読んだ。私は作者の西尾維新の他の作品をすでに何冊か読んで好きになっていたので、この作品ももっと早く読んでいても良かったのだけど、微妙な大きさの単行本だったので手を出すのが遅れた。

物語は主人公の一人称で語られる。全五章で構成され、それぞれの章で別々の女の子を助けようとする話になっている。話の筋を書いてもしょうがないので、人物を中心に紹介していきたい。

まずヒロインの戦場ヶ原ひたぎ。このいかにもな命名は西尾維新ならでは。名前の語感に違わずかなり激しい性格をしている。好意的に近づいてきた主人公のほほにホッチキスを打つというとんでもない行為をするほか、作品を通じて主人公にものすごい皮肉や毒舌を吐きまくる。かつてこんなヒロインがいただろうか。彼女は家庭的な問題を抱えていたことがあって、その問題は既に解決していたのだが、当時の感情を押さえつけた代償として怪異に憑かれてしまうことになった。

そんな彼女を助けるための方法を示すのが、学習塾の廃墟に一時的な居を定める謎のアロハ服の中年忍野メメ。適当なことばかり言っているお調子者のように見えるが実はその道の専門家で、主人公たちから相談を受けるたびに膨大な知識の中から怪異の正体を披露して問題を解決へと導く。そんな重要な役目を行いながら、お嬢ちゃんが勝手に助かった、などとまるでセラピスト的なことを言う。というか「怪異」という具体的な形はとっているものの、この作品では実際にはその人の心の問題を扱っている。

二人目のヒロインは小学五年生の少女ハ九寺真宵。両親が離婚しており父親に引き取られている。母の日に母親のもとをたずねようとするが迷子になっており、主人公たちと接触することになる。ツインテールと巨大なリュックが特徴。主人公がのっけから嫌われるところから笑える。この少女もしゃべるしゃべる。ネタバレになるので詳しいことは書けないが、先の戦場ヶ原ひたぎと似たような激しい掛け合いが作中繰り広げられる。

三人目は主人公たちが通う高校で一番の人気者で有名人のスポーツ少女の神原駿河(かんばるするが)という後輩にあたる女の子。彼女は中学の頃に戦場ヶ原ひたぎを先輩として非常に慕っていて仲良くしていて、彼女を追って同じ高校にまで進んだほどだったが、彼女の急激な変化により激しく拒絶されるようになっていた。ところがそんな彼女と急に仲良くなった主人公を見つけ、付きまとうようになる。先の二人のヒロインと違ってこの神原駿河は主人公のことを持ち上げる持ち上げる。ネタバレになるのでこれ以上は書かないけれど、校内一の人気者なのに実は変態で性格が破綻しているところがとても魅力的でグッとくる。

四人目は千石撫子という主人公にとっては妹の友人。昔は妹に乞われてよく一緒に遊んでいたが最近は疎遠になっていた。しかしあるとき、彼女の周りで呪い遊びが流行っていて、彼女は同級生から恨みを買い、色んな偶然が重なってその身に呪いを受けることになった。

さすがにここまで読むと大体分かってくるのだけど、この作品はいわゆるハーレムもので、出てくる女の子がのきなみ主人公に惚れるという構図を取っている。彼女はその中でもおとなしいキャラという位置を占めている。また、作者の趣味なのか、スクール水着や体操着なんていう色気担当でもある。

五人目は主人公のクラスの学級委員長で成績優秀な羽川翼。主人公が春休みの事件で世話になり、主人公が無条件の尊敬をささげる相手。学業で落ちこぼれがちな主人公を支えようとしているのを、当の主人公は彼女の世話好きがなせることだと見ているが…。

この作品のメインは作者が自ら言っているとおり対話劇で、主人公と複数のヒロインたちとのかけあいの面白さが一番の魅力となっている。メインヒロインの戦場ヶ原ひたぎは主人公のことをけちょんけちょんにけなすほか、それぞれのヒロインがそれぞれのキャラクターの魅力全開で主人公と会話を繰り広げる。私はこの作品にアニメから入ったので、アニメを見て「なんだこのいかにもアニメ的な脚本は」と特に主人公の突っ込みについてアニメならではのやりすぎ感を感じていたのだけど、原作を見ると結構そのままだったので驚いた。本当かどうか知らないけど作者はこの作品を最初は公開するつもりはなくて自分で楽しむために書いたと言っているのだけど、その言葉がなんとなく信じられる程度に作者の趣味全開といった印象を受けた。活字でしか成り立たないような対話があったり、会話の間のようなものがまったく考えられていなかったりと、正直脚本として無理がありすぎると思うけれど、これはこれで読んでいて楽しいと思った。

三人目の神原駿河のところで初めてバトル展開がある。私はどうも作者の西尾維新が好む人外バトル展開が好きになれない。アニメで初めて見たときもすごく唐突な感じがした。主人公がなぜこんなに打たれづよいのか不思議に思った。まあそれは続刊の「傷物語」を読めば分かることなのだけど、この作品の時点では主人公であり語り部である阿良々木暦のあまり詳しくは語りたがらない回想としてほのめかされる程度だ。ともかくここで初めて主人公と怪異との戦闘シーンが描かれる。

なぜ書くのをこの順番にしたのだろうと不思議に思う。「傷物語」を読むと、この「化物語」での五人目のヒロインである羽川翼はこれ以上なく主人公と接近しているにも関わらず、この「化物語」では世話好きの委員長としてリセットされてしまっている。まあそれは語り部である主人公の気弱さのせいであり、それが分かればいいのだけど、読者の中には納得できない人もいるんじゃないかと思って心配になる。でもちゃんと初読で羽川翼の心情が分かって第五章で感動できたのでこれでいいんだろうなあ。ちなみにアニメではテレビ放送されず後日ネットで配信されただけらしく私は見逃した。原作では第五章の途中で描かれるメインヒロイン戦場ヶ原ひたぎとの夜空のもとでの初デートのシーンが、テレビ放映上では最後のシーンになっていて、ミク界隈で一番有名なryoという人が作曲したエンディングテーマで描かれる内容のとおりにきれいにまとまっちゃっている。

私がこの作品で一番魅力的に思ったのはスポーツ少女の神原駿河だ。校内一の有名人なのに部屋を整理できず散らかしており、恥ずかしい趣味を持っていながらそれを自慢に思っているなど、およそ現実離れした二次元ならではの女の子だ。主人公との関わりがあって初めて携帯電話を持つようになるところとか、電話の取り方が妙に男らしかったり、露出癖やBL好きや少女好きやMっ気があるところなど、これでもかとばかりに変態性が詰め込まれている。戦場ヶ原ひたぎを敬愛して頭が上がらないのでなんでも言うことを聞きそうなところとか、その戦場ヶ原ひたぎが性格悪いので本当に何かとんでもないことをさせようとするところなんかがとても面白かった。

多少の気になるところはありつつも、作者の西尾維新の非常に高い技巧で書かれた文章は全編冴え渡っていて、文章をなめるように味わった。こんなに噛み締められる文章というのはめったにないと思う。続刊で作者の趣味がさらに全開になっていくので、さすがに私はそこまでは付いていけない感じがしたのだけど、この作品に関してはまだ作者の自制が働いているのか、多くの人にとって読みやすい内容になっていると思う。まあその多くの人というのはたぶんオタク文化を受容できる人間だという但し書きがついてしまうのだろうけれど。アニメから入った人が原作であるこの作品を読んで小説の魅力を改めて感じることになるんじゃないかと思うし、さらにそれを超えて自分で何か書いてみたくなったりする人もいるんじゃないだろうか。結構しょうもないやりとりも多いのだけど。

ともかく間違いなく傑作で間口の広い作品なので読んでみて欲しい。
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