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自壊する帝国
ソビエトが崩壊するまでの数年間を、モスクワの日本大使館に所属し現地で過ごした、若き外交官の交遊録。作者は国会議員・鈴木宗男の側近として知られている外務官僚の佐藤優。

とにかく面白い。この人は同志社の神学部を出ているそうで、チェコの宗教家についての勉強をしたかったのでチェコ語を学びたい、それには外務省に入って勉強させてもらうのが一番、ということでこの道に入ったらしい。ところが役所も分かってるようで、チェコに派遣したらしばらくして辞められちゃうのが経験的に分かっているので、長くロシアに留め置かれる。

その前にロシア語の高度な習得のために、なんとイギリスの陸軍の語学学校に留学する。ソビエトでは西側の外交官に語学能力をつけさせないためにわざと質の悪い講義をするらしい。その点イギリスの軍は安全保障上、当然仮想敵国の言語ぐらい研究するものなので、モスクワ大学よりずっといいらしい。ただし大変厳しく、一定以上の成績を上げ続けないと放り出されるとのことだ。

その後、神学についての興味と人脈作りから、作者はモスクワ大学に聴講生として入っていく。面白いことに共産主義のソビエトには宗教がないため神学部もなく、とはいっても研究しないわけにはいかないので、代わりに科学的無神論学科というのがある。そこで作者は神学を学ぶ西側の外交官ということで学生や教授たちから気に入られる。ソビエト崩壊後はなんとここで一時的に教鞭まで取ったらしい。

ここでキーマンとなる長身で博識で美青年のサーシャ・カザコフが登場する。学内でハーレムを作りながら、数十年に一度という天才的な頭脳で書物を漁って研究し、ソビエトという閉塞的な国家をぶっ潰そうと行動する。作者はこのサーシャから、ここでのものの考え方を教わったり、人脈を作るための紹介をしてもらったり、逆に彼に何かを教えたり酒などの便宜を図ってあげたりする。

作者はここから人脈を拡大していき、出会った人々と交友を深め、友情を築いていく。アカデミックな人々から、反体制派、果てはバリバリの共産党人脈まで。本書の魅力はこういう人と人とのつながりやふれあいにある。作者があとがきで書いている通り、ソビエトがなぜ崩壊したのかという考察は本書ではさほど語られておらず、様々な人々の口を通じて多面的に物事が語られていく。

文章がすっきりしていて透明度が高く知性にあふれており、まるで作者が文中でがぶ飲みするウォッカのようだ。時系列でやや混乱することがあったが、人物を主軸に置いている以上仕方がないだろう。この形が一番読みやすいのだと思う。

ソビエト崩壊過程が読んでいてちょっと分かりにくかった。ゴルバチョフは一言で言えば能天気で、ペレストロイカに賛成する人々が多かったため支持を得ていたが、改革が共産主義でまとまっているソビエトを緩やかに解体する方向に向かい始めたときにそれまで味方だったはずのロシア共産党からのクーデターにあい、それをきっかけにソビエト大統領だったゴルバチョフとロシア大統領だったエリツィンの権力の天秤が大きく動いたということなのだろう。このぐらいちゃんとニュース見とけってことか。

私はめったに単行本は読まないし買わない。通勤中に読むことが出来ないからだ。そんな私が本書を書店で見かけてすぐに買ったのは、ちょっと立ち読みしてすぐにこの本が優れた滞在記だと思ったからだ。期待を十二分に満たしてくれた。政治について考える材料にもなった。こんな魅力的な世界が現実にあるのだとめまいがしそうな思いがした。頭のイイ人同士の会話がキラキラしている。上司や日の丸への愚痴もほんの少しあって、多分書いてないだけでもっと不満はあるのだろうけど、抑え目なので目立たない。そりゃいまも現役だから当然か。

作品の性格上、散漫で一本の物語になっていないため、読んでなんじゃこりゃと思う人がいなくもないと思う。しかし、この形こそエッセンスの詰まった人と人の物語だと思う。
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