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瀬島龍三 参謀の昭和史
当時伊藤忠会長で臨調委員だった瀬島龍三の、大本営参謀から身を起こした半生の謎を検証しようとした本。東京裁判でソ連側の証人だった彼は、日本人のシベリア抑留の密約を結んでいたのか? とその後の参謀的な生き方について。

元は文藝春秋に作者がまとめた文章から。

瀬島龍三がいまでも秘密を守ったままにしているということには怒りを覚える。作者が疑惑を追及し真実を語ってくれと強く求めるのは非常によくわかる。

ただ一点、作者が瀬島龍三について否定的に語っているが私にとっては魅力的に感じた点がある。自分の意見を押し通そうとしないどころか最初はまったく語らず、みんなの意見を聞いた上でそれを強引に三つにまとめて話を整理することが多かったという。実務家だなと思った。それもルーツは参謀になるために受けた教育だというのは面白い。

台湾の航空戦の過大な戦果を疑問に思った他の参謀が打った通信を握りつぶした疑惑は、もし本当ならとんでもない話だが、若い将校一人がとめようとしてもとまらなかっただろうなとも思う。瀬島龍三は、魁!男塾で出てきたような仲間を売った将校ではなく、単なる平凡で状況に流された人間だった。

責任ある立場にいた人なのにその責任を果たしていないと思うが、一人の人間としてしょうがないんじゃないかと思えてきた。この人のせいで何人もの人が死んだのかもしれない。ここまでは許せる。

しかし、作者が言うように、戦後も高い地位に登りつめて社会に大きな影響力を及ぼしたのはとんでもないことだと思う。この人はこの人なりに日本に尽くしたいと言っているし、自分の意見を押し通すのではなく整理しただけなのだから私心はないというのは分かるのだが。

とは言っても、こういう人がいたからこそ、批判されるべき点があるとはいえ改革が成功したのだとも思う。いまの日本の政治状況を見ると、政府と与党が衝突して郵政民営化が進まなくなっている。中曽根が臨調をつかって国会を無視して族議員に根回しして成果を上げたのと、果たしてどちらが良いのか。

とまあ話は面白いのだけど、話の焦点がこれと決まっているわけではなく、一人の人間の歩み、ある種の伝記となっているので、読み物として楽しみたいという人以外には勧めにくい。話が戦争から経済から政治にと飛ぶので、すべてに興味を持てないとつまらないだろう。よく調査してあるみたいなので、信頼性がある。

一点だけはっきり気になったのは、作者はスタッフとラインという言葉をよく知らないみたいだった。参謀はスタッフで、ラインを助けるのがその役目だ、と瀬島が言っているのを取り上げて、参謀長を補佐していたのが別の人を補佐するようになっただけ、みたいに言っている。参謀長はスタッフのボスであってラインではないのに。スタッフは言ってみれば間接部門のことで、ラインが直接部門のことのはず。

歴史は風化していく。歴史の証人が次々と死んでいく。だが死んでいくからこそ、当時の新たな資料が公開されやすくなる。国家は存続しつづけるので国家に関する資料は未来永劫公開されないのだろうが、個人に関係する部分はこれからどんどん公開されることを期待したい。
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